Noticing me! | ナノ

22

「お前な…ボロボロの捨て犬かよ」
「…」
「めんどくせえ。新しい飼い主でも探せばいいじゃねえか」
「なッ!?嫌です!大我さんがいいんです!」
「はあ?ったく…アイツの何処がいいんだか」
「私も一体この人の何処がいいのか彼女さんに問い質したいですよ」
「あ?なんか言ったか」
「いいえ何も」
休日の深夜、たまたま入ったファーストフード店で青峰さんに遭遇した。
夜中にファーストフードなんて滅多に食べないのに今日に限って小腹が減って我慢できなかった自分を責める。
とりあえずとお辞儀をしたら嫌な顔をされたけれど、会計を済ませて空席を探していると目が合って顎で隣に促された、顎で、ここ重要。
相席は有り難かったけれど相変わらず酷い態度だ。
大我さんへの猛アタックを続けるも報われない日々に疲れ始めた私は今、彼の言う通りボロボロに草臥れた捨て犬の様だ。
腹立たしいけど間違ってない。
『大我さん!』
『一緒に帰りましょう!』
『ご飯行きませんか?』
毎日のように大我さんの名前を呼んで、話し掛けて、近付いて…精一杯自分の『好き』をアピール。
何度誘いを断られたってめげない。
でもそれは躍起になっているわけじゃない。
ただ大我さんの事が好きなだけ。
好きな人の近くにいたいと思うし、声を聞きたいと思うし、触れたいと思う。
当たり前の感情を曝け出しているだけだ。
私が話し掛ける時、私の誘いを断る時、彼の表情は何故か情けなく歪む。
その表情の真意は分からないけれど、心底嫌がられているわけではないのかな?とは思う。
そう思うのは楽天的だろうか。
大我さんは優しいから、本当に嫌でも強く拒否出来ないって事なのかな。
色々考えるけど結局最後に辿り着くのはそれでも大我さんと一緒にいたい、その思いだった。
「で?お前はいつまでアイツに尻尾振るつもりだよ」
「ずっとです」
「はあ?いい根性してんな」
「それ褒め言葉ですか?」
「そう思えんならまだ暫く頑張れんだろ」
「…ん?え?」
青峰さんの言葉にポカンとしていると、仏頂面が崩れて吹き出した。
え、なんで?…でも青峰さんが笑ったとこ、初めて見たかも。
大我さんの方がかっこいいけど。
「火神はチキン野郎だからな。お前みたいにグイグイ押してく女が合ってんじゃねえの?」
「なんですか今度は。っていうか大我さんの事悪く言わないでください」
「わーったわーった、お前のそれは聞き飽きたっつうの。そうじゃなくてよ…もうちょい喰らい付いてみろって言ってんだよ」
「…そ、そんなの青峰さんに言われなくてもそのつもりです」
「っくは!上等だ」
「なんなんですかもう。酷い激励ですね、さすがです」
「うるせえよ。…おら、お目当ての『大我サン』が登場だぜ?」
「…はい?」
何を言ってるんだこの人は、と思いながら青峰さんの親指の指し示す方にゆっくり振り返る。
そこにはトレイに物凄い量のバーガーを積み上げた大我さんがキョロキョロしながら立っている姿が。
彼を視界に入れた瞬間逸り出す心臓が、私がどれだけ彼の事を好きかを表している様だ。
青峰さんが手を挙げれば彼の視線がこちらに向けられる。
男性客に少し隠れた私に気付かないまま大我さんが近付いて来た。
「火神」
「おう、青み、ね…」
「おせえよ。ココ、空いてんぞ」
「…名前」
「大我さん」
やっと私に気付いた大我さんが目を見開いた。
そして今度はその目を戸惑いに揺らす様に青峰さんに向けた。
「座れよ。そいつの隣空いてんだろ」
「…おう。いいか?名前」
「っはい!勿論です!…って、青峰さん?」
「あ?」
「どこ行くんですか、トイレですか?」
「は?ちげえよ。オレは帰んだよ。交代だ」
「「え!?」」
2人の声が重なった。
立ち上がった青峰さんは私たちを見下ろしてニヤリと笑っている。
大我さんと会えたのは嬉しいけどなんの心の準備もないまま2人になるなんて!
縋るように青峰さんを見ると鼻で笑われた、酷い。
「じゃあな」
「おい!青峰!」
「んだよ」
「…いや」
「デカイくせに女々しいんだよてめえは」
「なっ」
「青峰さん!いい加減にしてください!」
「へーへー。悪口言うなってんだろ?ったく、どんだけだよ」
言いながらポケットに手を突っ込んで歩き出す。
頬を膨らませ体を捩って振り返り、青峰さんを睨み付け見送った。
最後にチラリとこっちを見た青峰さんにベーッと舌を見せれば、物凄く睨まれて益々怖い思いをしただけだった。
そこから体勢を戻す途中、同じ様に振り返っていた大我さんと横向きで向かい合ってしまい一瞬時間が止まる。
こんなにバッチリ目が合ったのは久しぶりの様な気がした。
「…名前」
「あ」
「わ、悪いな。いきなり」
「いえ!」
至近距離で目が合いドキドキと心臓が騒ぐ。
かっこよすぎる!とか好き!とか飛び付きたい!とか色々顔に出てやしないかと思ってしまう自分が痛い。
珍しく目を逸らさない大我さんに少し戸惑いつつ、窺うように彼の瞳を見つめた。
「あ、あんま見られるとその…恥ずかしいんだけどよ」
「!っごめんなさい!」
慌てて体を正面に戻して小さく息を吐く。
正面を向いたもののさっきまで青峰さんが座っていたそこは当然誰も居なくて、窓ガラスごしに隣に座る大我さんが見えてまた心臓が跳ねた。
ていうか大我さん…
あんまり見られると恥ずかしいっていうから見るの止めたのに、何故か当の本人は動かずじっとこっちを見ている。
窓ガラスに映った大我さんはテーブルに頬杖を着きながら確かに私を見ていた。
「あ、あの…大我さん」
「…」
「大我さん?」
「…」
正面を向いたまま問い掛けるけれど返事はない。
これは何の羞恥プレイですか!
ハンバーガーを食べる様子もないしこれはもう一度そっちを向いてもいいだろうか、私。
ええい!と意を決して恐る恐るゆっくりと大我さんの方を見る。
「…え」
そこには予想に反して酷く優しい目をした大我さんがいて…
その彼の大きな手がゆっくり私に近付いて、
頭に…
「可愛過ぎだろ」
「!」
頬に…
「名前」
触れた。

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