Noticing me! | ナノ

20

幸せだった。
大我さんと一緒の休日。
のんびり午後から家を出てショッピングを楽しんだ。
彼の靴や服を選んだり私好みの雑貨屋さんを巡ったり、片っ端からお店を見て回って沢山歩いたけどちっとも疲れない。
楽しくて仕方なかった。
今この時だけは私が大我さんを独占している。
そう思うと自然と頬が上がった。
同じ様に笑顔の大我さんを見て彼も私と同じ気持ちでいてくれたら嬉しいと…そう思った。


「大我さん!食べ過ぎです!」
「んあ?普通だろ」
「いやいや全然普通じゃないですから!」
「まだ頼んだの全部来てねえぞ」
「…うぷ」
「っはは!なんでお前が苦しそうにしてんだよ」
「見てるだけでお腹いっぱいです」
夕食をとる為ファミレスに入った私たちは色々な意味で目立っていた。
主に大我さんだけど。
先にメニューを選んだ私は注文を大我さんに任せてトイレに向かったのだけど、その間に彼が注文した量が半端なかったのだ。
テーブルには隙間なく料理が並べられていて既に空のお皿もある。
店内の騒つきは間違いなくこの彼のせいだろう。
只でさえ背が高くて座っても圧迫感のある人がこの量を食べるのだから周りの目も集中する、…かっこいいし。
『お前も食うか?』なんて言ってフォークに突き刺したチキンは私にはとても一口で入り切る様な量じゃ無かった。
お腹いっぱいになった私はもうギブアップだ。
目の前には口いっぱいにパスタを頬張りモグモグと咀嚼する大我さん。
頬の皮がよく伸びるなぁなんてちょっと笑いながら見つめているとふと大我さんのモグモグが止まった。
「なんだ?」
「あ、大我さんほっぺたが柔らかそうだなぁって」
「そうか?」
「はい。ほっぺたに食べ物蓄えて、なんだか」
「ハムスターみたい、か?」
「え、あ、そうですね」
「やっぱそうか。実はそれ、彼女に言われた事あってよ」
「え」
「あの時もパスタだったか…確か」
「…」
「ほっぺに食べ物貯め込んでるみたいとか言ってよ、っはは」
「あ、はは」
「懐かしいな」
そう言って少し遠くを見る様にして微笑んだ大我さんに私の心臓はぎゅっと掴まれた様に苦しくなった。
ほら、やっぱり彼女さんだ。
彼女とも2人きりで食事したんだろう、きっと何度も。
たった一度の食事でこんなに大喜びしていた自分が途端に惨めになった。
気持ちと比例していつの間にか頭が項垂れ、ぼんやりとテーブルの木目を見つめていた。
私はどうしたって彼女に勝てない。
いくら幸せだと感じたって私の想いなんて彼女と彼の思い出に勝てやしないのだ。
分かってた事だ。
一気に落ち込んだけれど大我さんを心配させてはいけないと顔を上げる。
すると少し眉間に皺を作った大我さんがじっと私を見ていた。
「!」
「…なあ、名前」
「…はい」
「今日楽しかったか?」
「はい…とても」
「そっか」
「大我さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「なんだよ改まって」
「い、いや…ホント楽しくて…幸せだったから」
「名前?」
無謀だと分かっていても伝えたかった。
今伝えなきゃずっと言えない気がして。
首を傾げる大我さんに向かって不細工であろう情けない笑顔を作った。
「大我さん」
「ん?」
「私大我さんに嘘つきました」
「は?嘘?」
「はい」
「ん?仕事で何かあったのか?」
「違います」
「じゃあなんだよ」
「…あの時」
「?」
「大我さんが家の前で待ってた日です」
「!お、おう」
「あの時、誤魔化した事…嘘なんです」
「…え」
「本当は」
私は一つ小さく息を吐き、いまいち理解出来ていない様子の大我さんの目をしっかりと見つめて口を開けた。
「支えになりたかった」
「…支え?」
「落ち込んでる大我さんの、支えになりたかったんです」
「!」
「彼女さんとの事を全部全部私で上書きして欲しいって。大我さんにはずっと笑顔でいて欲しいって」
「っ名前」
「でもまあ…私なんかには到底無理な事だったんですけどね。慰めるなんて、ホント。彼女の代わりなんて…無謀にも程があります」
そう言ってへらっと情けなく笑った私を彼は目を見開いて見ていた。
そう、私は彼を笑顔に出来ない。
「名前、お前」
「大我さん」
「な、なんだよ」
「今日は本当にありがとうございました」
「え」
「幸せだったなあ」
「名前?」
「明日からまた頑張れます」
「お、おい」
バッグを持ち立ち上がった私を追う瞳は困惑に揺れている。
ああもう、そんな顔しないで下さいよ。
男前が台無しです。
「大我さん、言い逃げしていいですか」
「は?何言ってんだよ」
「すいません、言い逃げします」
「名前?」
「好きです、大我さん」
「!」
「私、大我さんが好きです。多分、初めて会った時から」
「名前」
「ずっとです」
「っ」
「じゃあ、また明日!」
「え!じゃあって!っおい名前!」
私はお代を置いて歩き出した。
大我さんは自分の分しっかり払って下さいよ!なんて思いながら足早に席を去る。
チラっと振り返ったら席を飛び出した大我さんがウェイターさんとぶつかってちょっとした騒ぎになっていた。
私は彼が足止めを食っているうちに店を出る。
彼を困らせた事は自覚しているけれど後悔はしていない。
燻っていた気持ちをぶつけてスッキリしたのかもしれない。
とはいえこれからの事だって、まして当たり前の様にやって来る明日からの仕事の事だって考えてない。
ただ一つだけ言えるのはいつものアレだ。
大我さんが好き。
寒空の下、歩幅大きく歩く自分が気持ちも前進出来た様な気がして晴々しかった。

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