Noticing me! | ナノ

15

今日は初めて大我さんが休暇を取った。
ていうのは少し語弊がある。
休んで貰ったのだ、半ば無理矢理。
大我さんは決して疲れたとは言わないけど、彼を休まず働かせてしまったのは私だ。
私が慣れるまで何から何までしっかり教えてくれた。
連勤で疲れの見えて来た大我さんに、私はついにもう大丈夫だから休んで下さいと言ったのだ。
自分の仕事に自信があるわけではないけれどなんとか並にはこなせるはずだ。
毎日必ず1人は社員さんだって居るしバーテンのバイトくんも居るし、私はとにかくしっかり抜かりなく周囲に気を配りホールを担当すればいい。
そう意気込んで臨んだ1日。
無事最後のお客を見送った私は『OPEN』を『CLOSED』にしてホッと息を吐いた。
「終わったぁー」
ラストまでの数名のスタッフにはついさっき上がって貰った。
後は私が閉店作業を済ませて戸締りすればOKだ。
事務所に籠りキーボードを叩いて本日の集計。
カタカタという音だけが暫く部屋に響いていた。

カタン。
「!?」
「お、…あ、悪い。驚かせたか」
「大我さん!?」
「お疲れ、名前」
静かな部屋に響いた物音に大袈裟に身を強張らせれば、入口に大我さんが立っていた。
向けられた笑顔に1日の緊張と疲れが吹き飛んだ気分だ。
大我さんの顔を見てホッとしたせいか目の奥がじんわりと熱を持つ。
私と目を合わせた大我さんがギョッとして詰め寄って来た。
「なッ!や、やっぱ辛かったか!何かあったのか!?」
「ち、違います違います!」
「なんだよ!じゃあなんで」
「すいません。なんかッ、ホッとしちゃって」
「…名前」
理由を告げればまた空気が和らいだ。
と同時、大我さんと私の距離が一気に縮んだ。
心配させてしまった事を謝ろうと口を開きかけた私は、気付けば大我さんの大きくて温かい腕の中に居た。
「った、大我さん!?」
「…」
「ッ!?」
無言でギュっと抱き締められて顔を押し付けられれば鼻いっぱいに大我さんの匂いが広がる。
仄かな香水の香りが私の心音を速めた。
「大丈夫だ。1日お疲れ。頑張ったな」
「!」
優しくそう言われ腕の力が弱まったのに合わせて顔を上げる。
そこには優しげに私を見る大我さんの瞳。
そしてニッと歯を見せ笑って、いつもの様に頭をポンポンしてくれた。
顔が綻ぶ。
そんな私の頭をもう一度ポンッと叩くと大我さんの体がそっと離れた。
「帰ろうぜ!」
「え?」
「DVD借りた帰りなんだよ。お前と帰ろうと思ってよ」
「そう、なんですか?」
「おう!だから一緒、帰ろうぜ?」
そう言って事務所の戸締りチェックを始める大我さん。
嘘だ。
大我さん嘘吐いた。
レンタルショップはこの付近にはないし大我さんの家方面にある店は大分先だ。
この辺をうろつくはずがない。
お店を心配して見に来た事を私にバレたくないって事かな。
色々考えてしまうのは仕方ない私の残念な習性だ。
まあどんな理由であれ大我さんと一緒に帰れる事になった私は十分嬉しかった。


歩きながら大我さんは今日赤司さんに会ったと話してくれた。
彼も忙しいらしく会ってゆっくり話すのは久しぶりだと言っていたけれど。
「赤司にスタッフを甘やかすなって言われたんだよ」
「甘やかす?」
「まあなんつうか…下を育てて俺に休めって事らしい」
「確かに…大我さんオーナーって感じしないですもんね」
「お、おい…それどういう意味だよ」
「え!否!いい意味でです!仕事熱心って事で!オーナーって言ったら下に仕事任せてたまに顔出しに来るのが王道ですよ!」
「そうなのか?まあ…そうか。今日休んだっつったら『いい傾向だ』だとよ」
「そうですよ!またいつでも休暇取って下さい!私もう平気ですから!」
「お前しっかりしてるし、もう仕事も完璧だしな」
「そ、それは、言い過ぎです…」
「ホントの事だろ」
「…ありがとうございます」
お世辞でも褒められれば嬉しくなる。
それは大我さん限定かもしれないけど。
ニヤける頬を気付かれない様ペシペシと叩いて誤魔化した。
話が切れたと話題を変えようとした所で、大我さんが息を吸い込む音がして口を止める。
吐き出された言葉に私は『考える』時間を要した。
「ならよ、」
「?」
「たまには俺ら2人纏めて休暇取ったっていいんじゃねえか?」
「………え?」
「勤務歴長いヤツも居るしなんとかなんだろ」
「…」
「そういやお前と店とか仕事関係以外で会う事ってなかなか無いよな?否、なかなかっつうか1回もなくねえか?」
「…」
「お前休みん時って何してんだ?」
「…」
「行きたいとことかあるか?」
「…」
「ん?お前何黙ってんだよ。どうした?」
「…た、大我さん?」
「ん?」
これは…どういう事だ?
2人が休みを取る、というのは分かった。
こうやって送って貰う事含め、お店とか仕事以外で会う事もないって話も分かってる。
休みの日に私が何をしてるのかを聞かれた事も理解した。
『行きたいとことかあるか?』ってなんだ?
外れたら大層恥ずかしい、自分勝手で都合のいい想像を膨らませているけどいいのだろうか。
立ち止まって大我さんの目を見ていれば、彼の口から正解が告げられた。
「休み取って出掛けようぜ」
「!」
初めて神様はいるのかもしれないって思った。

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