純恋 | ナノ



「ちょっと!青峰くんッ!」
「んだよケチくせーな」
「そういう問題じゃないから!」
桃井が部活の連絡に来る度に騒がしい。
勿論原因は青峰の…は、破廉恥な行動だ。
今日は桃井の制服のスカートを捲っていた。
周りの他の男子生徒にまでサービスさせている事に馬鹿な青峰は気付いていないのだろう。
ふと隣から小さな溜息が聞こえた。
「…苗字?」
「!な、何?」
「具合でも悪いのか」
「全然?平気だよ?」
「なら止めるのだよ、溜息を吐くと幸せが逃げる」
「…」
「…なんだ」
「…っぷ、ふはは」
「な、何を笑っているのだよ」
「だって、緑間くんからそんな言葉が出ると思わなくて、っふふ」
「…も、もう言わん!」
「嘘嘘。その通りだよね、今ので大分幸せ逃げちゃったかなー」
「ふん、そのくらいで逃げる様な幸せなど元から重要ではないのだよ」
「…」
「…なんだその間抜け面は」
「緑間くんって不思議」
「言われ慣れているのだよ」
「そうじゃなくて…私が言ってるのはいい意味で、だよ」
「いい意味?変な女だ」
「そう?お互い様かな」
そう言って苗字は笑った。
他人の気持ちに疎い俺は、苗字の溜息の意味など分かるはずが無かった。


「緑間っち〜」
「なんだ」
「最近どうッスか?」
「なにがだ」
「ほら、彼女ッスよ!苗字さんだっけ?」
「!」
ガコン!
黄瀬に話し掛けられながらもシュート練習をしていた俺は黄瀬のたった一言で集中力を欠いた。
最近は駄目だ。
こんなにも人事を尽くしているというのに、『苗字』に関する物事がチラつくとこうだ。
そんな俺に黄瀬が更なる爆弾を投下した。
「緑間っち、あの子の事好きなんスね」
ガッコン!
「あー、ほらやっぱり」
「な!何故そうなるのだよ!」
「そんなの一目瞭然ッスよ。緑間っち鈍すぎっしょ」
「な、なんだと?」
「でも前途多難ッスね…自覚した所で敵は手強いッスよ」
「何をわけの分からん事を」
黄瀬がチョイチョイと手招きをした。
不服ながらもそこへ向かい、黄瀬が指差す方に目を向ける。
そこには苗字の姿があった。
「…苗字………青峰」
そして彼女の視線の先には、青峰。
ボーっとしながら見つめるその姿はどこからどう見ても対象に好意を寄せるものだった。
俺にでさえ分かる程に。
「最近よく見に来てるんスけど、どうもお目当ては青峰っちみたいなんスよね」
「…」
「緑間っち、ファイトッス!」
「…俺には関係ない事なのだよ」
「そうは見えないんスけど」
…自覚した所で?
自覚だと?
俺が何を自覚したというのだよ。
俺が、この俺が、苗字の事を…
苗字の事を好き、だと?
「!」
どくんどくんと心臓が速度と容量を増して血液を循環させるような感覚。
もう一度苗字に目を向けるとその拍動は更に威力を増した。
そうか…
モヤモヤ、動悸、息苦しさ、の原因は不服にも黄瀬によって解明されてしまった。
そんなに俺は解りやすかったという事か。
ならば本人にもバレているのだろうか。
そう考えたがそれはすぐに解決した。
「…自分の事で精一杯の様だ…俺の事に気付くわけがないのだよ…」
俺の視線の先の苗字はずっと青峰を見つめていた。
周りのものが一切視界に入っていないのだろう。
普通なら視界に入る位置に居る俺にさえ全く気付く様子は無かった。
「恨むのだよ黄瀬…こんな事気付く必要など無かった」
俺の声は体育館に響くボールの音に掻き消された。

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