純恋 | ナノ



「青峰くん」
「あ?さつ、き…じゃねえ、苗字か…なんだよ」
「あはは!ごめんね、桃井さんじゃなくて」
「だいたい起こすのはアイツだからな。わりぃ、間違って」
「こっちこそごめん…あのね、先生が呼んでたよ。職員室来いだって」
「はぁ?マジかよ…寝てたのバレたか」
「多分ね、頑張って」
「頑張る事じゃねーだろ。フケるか」
「駄目だよ、後がまた面倒だよ」
「さつきみてーな事言うなよな」
青峰と苗字が話すのを見るのは珍しくない。
大抵苗字から話し掛けている様だが、青峰も特に面倒くさがらず接している。
桃井以外の女は適当にあしらう青峰からしたら、女子の中でも唯一普通に話す存在かもしれない。
そう分析した俺は妙に胸の辺りがモヤモヤとした。
よく分からないが気分は良くない事は確かだ。
「緑間くん?」
「…なんだ」
いつの間にか席に戻って来た苗字が俺の顔をまじまじと見ていた。
さっきまでもモヤモヤは消え、今度は心拍数が上がる様な感覚。
同じく気分は良くない。
「どうかした?珍しく考え事?体調悪い?」
「否…」
「そう?具合悪かったら言ってね」
「…ああ」
「そうだ、緑間くん」
俺の体調を気遣った後、椅子を寄せて距離を縮めて来た苗字に驚いて目を見開く。
何か人に聞かれたくない様な話なのか、内緒話でもする様な低い体勢になっていた。
「な、なんだ」
「あのさ…ちょっと聞きたいんだけど」
「?」
「青峰くんって桃井さんと付き合ってるのかな?」
「…は?」
「え、だから…青峰くんと桃井さんは恋人同士なのかなって」
「な、何故そんな事を俺に聞くのだよ」
「同じバスケ部だし、知ってるかなって思ったんだけど」
「…俺はそういう類の事は知らん。黄瀬にでも聞け」
「黄瀬くんは友達じゃないもん」
「…友達じゃない?なら俺は」
「友達でしょ?」
「…」
「あれ、私はそう思ってるんだけどな」
「そ、そうか…」
今度俺を襲った症状は苦しさだった。
…なんなのだよ、この息苦しさは。
思わず顔を顰めると苗字の表情が曇った。
「あ…もしかして、迷惑だったり」
「なッ!ち、違うのだよ!そんな事は、ない!」
今苗字の顔を曇らせたのが自分だと思うとどうにも居た堪れなくなって、俺は焦る様にそれを否定した。
俺の言葉に安堵したのか幾分か苗字の表情が柔らかくなる。
それを見て酷くホッとした自分が居た。
苗字は笑っている方がいい。
不意に浮かんだ言葉に羞恥が湧いた。


…最近の俺はどうかしているのだよ。

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