純恋 | ナノ

二十

ポツポツと雨粒が達磨を濡らす。
伝う雫をまた苗字のハンカチが拭った。
「私も叶えたい願い事があるんだけど」
「…」
「達磨ってきっと『お願い』じゃ駄目なんだろうね」
「…何?」
苗字の目が俺の目を射抜く様に見つめる。
揺るぎないその瞳に思わず肩が上がった。
「叶えたいなら…お願いするんじゃなくて人事を尽くさないと、だよね」
「!」
「私も頑張らなきゃ」
そう言って何かを決意した様な苗字の表情は晴れやかだ。
彼女の『俺らしくない』の意味を俺なりに理解する。
そうだ。
『人事を尽くして天命を待つ』
最近の俺は悩む考える落ち込むばかりで自ら何もしようとしていなかった。
本当は理解していた。
彼女に笑顔でいて欲しい、そう思う一方でその笑顔の先にいるのが青峰でなく自分であって欲しいと思っていた。
彼女の隣を歩くのも応援するのも青峰でなく俺であって欲しいと。
「苗字、俺は」
「緑間くん」
「!」
俺の言葉の続きを遮った苗字が意志の強い瞳を向けた。
そして、
「私ね…緑間くんの事が好き」
「な…お前は、」
「青峰くんじゃないの」
「!?」
「こんな言い方凄く失礼かもしれないけど…いつの間にか緑間くんの事、好きになってて…」
「!」
「おは朝信じてる所も、生真面目な所も、バスケが好きな所も、頑張り屋さんな所も」
「お、い、」
「たまに見せてくれる笑顔も、優しい所も、全部全部」
「ッ」
「緑間くんが好き」
感じた事の無い感情の波が押し寄せる。
苗字が、俺の事を好きだと?
青峰ではなく、俺の事を。
全身が沸騰したかの様に熱くなった。
顔を赤くして俺を見つめる目の前の苗字のせいだ。
その顔は反則なのだよ。
「苗字」
「…何?」
「俺も、お前が好きなのだよ」
「!」
「お前の幸せを願う一方で、青峰でなく俺であればいいのにとずっと思っていた」
「っ緑間くん!」
「好きなのだよ、苗字」
ほんの少し素直になれば、想いが堰を切った様に溢れ出した。
瞳を潤ませ眉を下げた苗字の情けない笑顔に愛しさが込み上げる。

今の俺にあるのは
『彼女を笑顔にしたい』
そんな単純で純粋な想い。
ああ、そうだ。
苗字と一緒に達磨の右目を描こう。
そう決めて彼女の手を取る。

いつの間にか雨が上がった。


「そういえば苗字、用事はいいのか」
「ん?これがその用事だよ」
「!そ、そうか」

END
20140909

prev / next

[ back to top ]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -