純恋 | ナノ

十九

『緑間くんって変わってるよね』
『あんな占い信じて変なモノ持ち歩いて…おかしいんじゃない?』
『緑間くんと席離れて良かった』
『私、青峰くんが好き』
『緑間くんなんて…』

「ッ!!」
夢…。
なんて夢を見ているのだよ、俺は。
久しぶりに見たこの夢が現実とリンクしている気がして嫌な汗が伝った。
彼女の人間性はよく分かっているつもりだ。
あんな事を言うはずがない。
そう思うのに、あまりにリアルに感じたその夢は俺を惑わせた。
学校も部活も休みの今日。
1日の始まりが散々で思わず溜息を漏らした。
溜息、か…今の俺にこれで逃げる幸せなど、ない。

外を見ればしとしとと雨が降っていた。
日課であるおは朝に見入る。
これを見て今日の運の立て直しだ。
「蟹座の貴方、今日のラッキーアイテムは達磨です。また、気分転換に散歩をすると良いでしょう」
部屋のクローゼットから古びた小さめの達磨を見つけ出す。
目の入れられていないそれと向き合う事数分。
俺は深呼吸をして筆ペンで達磨の左目を開眼させた。
「残念ながらお前の右目が開眼する事は…ないのだよ」
そう静かに呟いて達磨を手に立ち上がる。
雨の中の散歩もたまにはいいだろうと部屋を出た。

休日の雨の日のこんな早い時間に出歩く人間は少ない。
たまにすれ違う人は身を屈め足早に通り過ぎて行った。
隻眼の達磨を手の平に乗せ歩く俺を気にする人も居なかった。
何気なく視界を上げた先に鮮やかな花柄の傘。
それに酷く見覚えのあった俺は思わず立ち止まった。
足元を見て歩いているのか傘で顔が隠れて見えないがあれは間違いなく、
「緑間くん」
「…苗字」
数メートルの距離で彼女は歩みを止めた。
眉を下げて微笑むその顔は以前の様に自然体ではない。
それでももう一度目を細めて彼女は笑った。
「おはよう、早いね」
「苗字も…何か用事か?」
「うん、用事」
「そうか。足元が悪い、気を付けて行くのだよ」
「…」
黙り込んだ彼女は俺の手元の達磨に目をやった。
そしてバッグの中から何かを取り出し、距離を縮めた。
「!」
「達磨、濡れてるよ」
彼女が取り出したのはハンカチ。
達磨に着いた雨の雫を拭ったそれは、淡いピンク色をしていた。
以前俺が傘を借りた礼にと渡した物だった。
「苗字」
「はい、拭けた。ああ、左目が黒い涙流してるよ。緑間くん、水性で描いたでしょう?」
「っああ…失敗、したな」
「どうして片目?」
「…願いが、叶っていないからなのだよ」
「そっか。叶うといいね」
薄く微笑んだ苗字に見惚れる。
だがその笑顔は自分だけのものになる事はないのだ。
「…コレは一生隻眼だ」
「どうして?」
「叶う事のない願いを掛けたからなのだよ」
「そんなの、分からないのに」
「分かり切っている事だ」
「…緑間くんらしくないな」
苗字の言葉に俺は固まった。
そして彼女のあまりに切なげな表情に目を見開いた。
苗字をそんな顔にさせるような事を俺はしてしまったのだろうか。
俺は彼女に関してはマイナス思考ばかりが働くらしい。
やはり彼女を笑顔に出来るのはヤツだけなのだろう。

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