純恋 | ナノ



「緑間くん。次の授業さ、教科書見せて貰ってもいい?」
「…ああ、別に構わないのだよ」
俺が初めて苗字と会話したのは確かこんな内容だったように思う。
席替えをしてすぐの事。
それまでは同じクラスでも話した事など無かった。
教科書を忘れるとはだらしのない女だと思った。
よく話し掛けられる様になったのはそれから。
彼女の性格は明るく無駄に元気で誰にでも優しい。
皆が俺やバスケ部の連中に一目置いてあまり話し掛けて来ないせいもあり正直俺は戸惑った。
おは朝占いのラッキーアイテムについても気味悪がらなかったのは彼女が初めてだと思う。
「あはは!今日のラッキーアイテムはウサギのぬいぐるみだったの?」
「ああ。人事は尽くした。これで今日も俺は完璧だ」
「そっかそっか。でもそんな事しなくても緑間くんは大丈夫だと思うんだけどな」
「最善を尽くすに越した事はないのだよ」
「凄いね、緑間くんって」
「ふん」
苗字は俺が鼻で軽くあしらっても冷めた態度をとっても動じない。
別段楽しい事が無くとも常に笑顔だ。
あんなに無駄に笑顔を振り撒いて…よくも疲れないものなのだよ。
溜息をつけばまたクスクスと笑われた。
そしてまた突拍子もない事を言い出すのだ。
「緑間くん」
「なんだ」
「緑間くんって笑わないの?」
「…どういう意味だ」
「笑顔だよ、笑顔!笑ったらどんな顔になるのかなーって」
「…くだらん」
「試しに笑ってみてよ!ニッて」
「…」
「はい、ニッ」
「…」
「ほらほら」
「…」
「せーの」
「…」
「恥ずかしがらないで」
「…おい」
「ん?」
「これ以上は無理なのだよ」
「え?」
「これ以上は笑えんと言っているのだよ」
「…ぷ」
「…」
「緑間くんって面白いね」
「失礼なのだよ」
「ごめんごめん、悪い意味じゃないよ!」
「ならばどういう意味なのだよ!」
「想像してたよりお茶目だなって」
「な!!」
「あはは!」


不思議と
彼女の笑顔は悪くないと思えた

prev / next

[ back to top ]

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -