純恋 | ナノ

十八

練習試合を終えて、したくもない集団下校で門を出る。
赤司、紫原、黒子抜きのレギュラー3人で歩いた。
帰る方向が同じとはいえ今の俺にとっては避けたい面子だ。
「青峰っち、今日も絶好調だったッスね」
「あ?そうか?ま、いつも通りだろ」
「だからッスよ!緑間っちもね!」
「俺は常に人事を尽くしているからな」
「今日は特別な応援もあったッスからね〜」
「な!」
「なんだよ緑間!誰だ!?誰が応援してたんだよ!」
「う、煩いのだよ!そんな女居ないのだよ!」
「ちょ、緑間っち!俺女の子だなんて一言も言ってないッス」
「くっそ、女かよ!で、誰だ?」
「ッ!」
墓穴を掘った。
常に頭の片隅にいる彼女の存在がチラついていた。
そしてギャラリーでずっと俺に視線を送っていた苗字を思い出してつい口走ってしまったのだ。
黄瀬は少し焦った顔で口籠り、青峰が厭らしい目を向けて来る。
俺は溜息を吐いて無視を決め込み歩き出した。
先程の話題も忘れ去られた頃、もうすぐコンビニという所で青峰が声を上げる。
「…あれ、苗字じゃね?」
「!」
苗字がコンビニの前で背を丸め俯き、バッグをぶらぶらと揺らしていた。
こちらに気付く様子のない苗字に青峰が歩み寄る。
そうだ。
それでいいのだと、俺は背を向け自宅に向かって足を踏み出した。
「ちょ、緑間っち?行かないんスか?」
「…どこへだ」
「あの子の所ッスよ!」
「何故俺が行く必要があるのだよ」
「全く!緑間っちはホント頑固なんスから!」
黄瀬の制止を振り切って歩き出す。
そうすれば今度は青峰の声が響いた。
「おーい!緑間!」
「…」
「はぁ!?聞こえてんだろ、シカトすんなよ!」
「…なんなのだよ」
騒ぎ立てる青峰に溜息を吐いて振り返る。
その先に見た光景に俺は大袈裟な程に眉間に皺を寄せた。
青峰が苗字の肩に腕を回し圧し掛かり、苗字の顔は赤く染まっていたからだ。
やはり振り返るべきではなかったと深く息を吐いて眼鏡のブリッジを押し上げる。
「おい!待てって!方向同じじゃねえか!コイツも一緒に」
「お前が送ってやればいいのだよ!」
「はぁ!?」
苗字と目を合わせる事無く足早にその場を去る。
後ろで青峰がギャーギャーと吠えていたがもう振り返る気などない。
何故今日苗字が俺を見ていたかなど知る由もないが、結局の所青峰の前であんな顔をするのだからそういう事だ。
「黄瀬!お前もさっさと来るのだよ!帰るぞ!」
「え!俺!?アイス食べたいんスけ」
「帰るぞ!!」
「わ、分かったッスよ」
何か言いたげな黄瀬を無視してどんどん歩く。
胸の辺りが騒ついて酷く気持ちが悪い。
頼むから苗字を家までしっかり送り届けてやってくれと、心の中で青峰に呟きながら足を進めた。

「緑間っち、そんなに俺と帰りたかったんスか?」
「…」
「冗談ッスよ。不器用にも程があるッス」
「お前に言われる筋合いはないのだよ」
「損する性格ッスよね」
「余計な世話だ」
「そんな様子じゃ世話も焼きたくなるッス」
「ふんっ」
黄瀬の目に今の俺はそんなにも無様に映っているのだろうか。
否、自分が取った行動に今更後悔するなど愚の骨頂。
自分がどんな顔をしているか、考えずとも分かり切っていた。

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