純恋 | ナノ

十七

他校との練習試合の日。
授業を終えた俺はすぐに部活に向かった。
途中、青峰に話し掛けている苗字を見掛ける。
練習試合と知って応援に行くのだろう。
苗字は青峰と肩を並べて歩き始めた。
その2人を少し離れた後ろから追う様にして俺も歩く
青峰に笑顔を向ける苗字は本当に楽しげだ。
そうだ、これが彼女が望んでいる事。
やはり昨日の言葉は何かの間違いだったのだ。
部室のあるエリアで青峰に手を振って別れた苗字が振り向く。
俺を視界に捉えた彼女が走り寄って来た。
珍しく油断していた俺は戸惑った。
「緑間くん!」
「ッ苗字、どうした」
「今日練習試合なんだってね」
「ああ」
「緑間くんも出るんでしょ?頑張ってね」
「…ああ…だが俺はいい。お前は青峰の応援でもするのだよ」
思わず出た言葉は幼稚な嫉妬の様だった。
言ってすぐ後悔したが、何も言わなくなった彼女の顔を見て更に後悔が襲った。
「ッ、苗字?」
「わ、私に応援されても、困るよねッ」
「な」
「ごめんごめん!緑間くん凄いから、私の応援とかなくてもバシバシ決めちゃうし!」
「苗字」
「あ、大丈夫!さっき青峰くんにもちゃんと頑張ってって言ったから」
「…そうか」
「じゃ、じゃあね!」
忙しなく俺の元を去って行った彼女を見つめる。
彼女の表情が脳裏に焼き付いて離れない。
何故?
何故あんな悲壮な顔をするのだよ。
彼女が曲がり角に消えるまで、俺はその後ろ姿をずっと見ていた。


練習試合は言うまでも無く常に帝光が圧倒的な力を見せつけていた。
俺のシュートも寸分の狂いなく決まっている。
青峰もいつも通り順調に点を重ねていった。
タイムアウトで息を整えながらふとギャラリーを見上げる。
俺は彼女の姿を探していた。
全く、女々しい事だ。
青峰の応援をしろと自分で言ったくせに、彼女が少しでも俺を見てくれたらとも思う。
矛盾だらけの自分に溜息が漏れた。
「緑間っち」
「…なんだ」
「どうしたんスか、溜息なんか吐いて」
「煩い」
「溜息なんか吐いてると幸せ逃げちゃうッスよ〜」
「…」
「ちょ、睨まないで下さいッス!!あ、もしかして…恋煩いッスか?」
「ッ黙るのだよ!!」
「そんな怒んないで下さいッス!」
ギャンギャン煩い黄瀬を怒鳴りつけて天を仰ぐ。
そこから視線を戻そうとした先に…苗字が居た。
目が合った俺は狼狽えた。
何故、俺と目が合うのだよ。
何故、俺を見ているのだよ。
青峰は今赤司とマンツーマンで話している。
俺の居る場所からはだいぶ離れていた。
そちらに一瞬視線を向けてからもう一度苗字の居る場所を見る。
それでも彼女が見ていたのは、俺だった。

prev / next

[ back to top ]

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -