純恋 | ナノ

十六

「あ…ごめん。嫌、だよね」
「なッ!そ、そんな事は無いのだよ!」
思わず大声で否定をした俺に驚いた顔をした苗字。
驚いたのはこっちなのだよ。
『緑間くんを待ってたんだよ』
真っ直ぐ見つめられそんな事を言われて冷静でいられるわけがない。
「帰ろ?」
「…あ、ああ」
歩き出した苗字の隣に並んだ。
こんな風に一緒に帰るのはかなり久しぶりの様な気がする。
同じ事を考えていたのか、苗字が話し出した。
「緑間くんと帰るの久しぶりだ」
「そうだな」
「いきなりびっくりしたよね、ごめんね」
「否、それは別に構わないのだが」
「…席、離れちゃってなかなか話す機会なくなっちゃったなと思って」
「確かに…そうだな」
肩を竦めて微笑んだ苗字に少しホッとした。
以前の様に他愛も無い話をしながら歩く。
そうすればあっという間に分かれ道の十字路に着いてしまった。
「じゃあ…緑間くん」
「…苗字」
「ん?」
「家まで、送るのだよ」
「え?」
ここで別れるのが惜しいと思った。
少しでも長く居られればいいと思ったからだ。
いつの間にか苗字に対する俺の想いは膨らんでしまったようだ。
席が離れた事でその想いも終わりに出来るかもしれないと思っていたが甘かった。
苗字は一瞬酷く驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
心臓が騒ついた。
彼女の綺麗な笑顔を見るのも久しぶりの様な気がする。
「あ、緑間くん今ちょっと笑った?」
「!」
「ね、やっぱり!」
「ッう、煩いのだよ」
「へへ。お言葉に甘えて、送って貰おうかな」
笑いながら歩き出した苗字を追い掛ける。
俺の表情の変化に気付く女などきっと苗字くらいなのだよ。
複雑な想いと共に、俺は確かな喜びを感じていた。


翌日。
俺は見たくも無い現場を目撃していた。
校舎の影に立つ苗字と顔も名前も知らない男が1人。
風に乗って聞こえてくる内容から、男が告白の為に呼び出したものだと分かった。
盗み聞きなど最低な行為だと理解はしつつも俺はその場から動く事が出来ない。
青峰を一途に思う彼女に限って簡単にOKを出すとは思えないが気になって仕方が無かった。
「俺じゃダメ?」
「あの…ごめんなさい」
「青峰なんかより全然優しい自信ある」
「ど、どうして青峰くん?」
「だって青峰の事好きだろ?席も今隣だし、見てれば分かる」
「…違うよ」
彼女の口から出て来た言葉に驚いた。
違う?
何故?
だいたい付き合う気のないヤツにそんな事を言って何の意味があるというのか。
当然男が食い付いて来た。
「え?そうなの?なら!」
「でもごめんなさい。好きな人がいるから」
「あー…そっか。分かった」
「ごめんなさい」
諦めて帰って行く男を見送る苗字を、俺はただ呆然と見つめていた。

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