純恋 | ナノ

十五

席替えをして暫く経った。
俺は隣に苗字がいない事に未だに慣れずにいる。
青峰と楽しげに話す苗字を後ろから見ているだけの日々だ。
女々しい事この上ない。
「緑間っち〜」
「寄るな。煩いのだよ」
「ええ!名前呼んだだけなのに!」
ピーピー煩い黄瀬を適当にあしらってシュート練習に向かう。
1人にして欲しい空気をこれでもかと出している俺に、また無神経な輩が1人近付いて来た。
「なぁ緑間」
「…なんだ」
青峰だ。
指の先でボールを回転させながら俺を見ている。
部活中に青峰が俺に個人的に話し掛けて来るのは珍しい。
その青峰の口から出された言葉に俺は動きを止めた。
「苗字ってよ」
「…」
「緑間の事好きなんじゃね?」
「………なんだと?」
そして続く言葉に怒りが込み上げる。
思わず睨む様に青峰を見遣ると、本人は特に気にする様子も無くボールを遊ばせている。
コイツは一体何を言っているのだよ。
あれだけ苗字が思っているというのに。
いくら桃井しか眼中にないとはいえお門違いもいい所だ。
否、単細胞なコイツがそこまでの考えに至るわけが無いか。
溜息を吐けば青峰の眉間に皺が刻まれた。
「なんだよ、辛気臭え」
「お前のせいなのだよ」
「あ?オレなんかしたか?」
「分からんままでいい。お前はバスケでもしていろ」
「言われなくてもするって」
「あ!青峰っち待って!勝負ッス!」
「仕方ねえな、受けてやる」
黄瀬と遠ざかる青峰の後ろ姿を見送る。
その先に苗字が見えた。
青峰を見つめていると思ったその視線は何故か俺を見ている。
不思議に思いつつ眼鏡のブリッジを押し上げれば、俺と目が合った事に気付いたのか苗字が手を振った。
嬉しさが込み上げる。
いつも青峰を追っている彼女の目が今は俺を見ているのだ。
とは言え手を振り返すなどと恥ずかしい事は出来ず、汗を拭って誤魔化した。



部活を終えて部室を出ようとすると、先に出て行ったはずの黄瀬が戻って来た。
忘れ物でもしたのかと思えば黄瀬は俺を呼んだ。
「緑間っち!何してんスか、女の子待たせて」
「……は?」
「約束してるんじゃないんスか?例の…」
黄瀬が次の言葉を発する前に俺は部室を飛び出した。
暫く行った先に、予想通りの後ろ姿を見つけた。
「苗字!」
「…緑間くん、お疲れ様」
ヘラリと情けなく笑った苗字の元へ駆け寄る。
何かあったのだろうかと嫌な予感がした。
「一緒に、帰らない?」
「お前は…こんな時間まで何をしていたのだよ」
「待ってたの」
「青峰はもう先に帰ったぞ」
「うん」
「今から追い掛ければ」
「いいのいいの」
「…何かあったのか」
「違うよ」
「なら一体どうしたというのだよ」
釈然としない彼女の様子に戸惑うしかない。
一瞬黙り込んだ後、困った様な顔で彼女は言った。
「緑間くんを待ってたんだよ」

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