純恋 | ナノ

十三

席に戻って行く青峰を睨み付ける様に見送ってすぐ、俺は違和感に気付いた。
その違和感の正体は…彼女、苗字だった。
苗字は視線を机に向けた状態で涙を流していたのだ。
「!?…苗字?」
「…」
「苗字」
「!」
俺の呼び掛けにハッとしてこちらを見た苗字の顔は困惑と驚きに満ちていた。
ツウッと伝う涙は彼女の柔らかい頬に真っ直ぐな線を作っている。
青峰の言動にまた傷付いたのだろうか。
『あっそ。ま、んな事どーでもいいけどな。オレには関係ねーし』
自分が関わっている話題に対してそんな事を言われたらきっと傷付くだろう。
彼女の涙を拭おうと伸ばし掛けた手を引っ込めた。
代わりにハンカチを取り出して差し出す。
苗字は目を伏せてそれを受け取った。
「大丈夫か」
「ッ、だ、大丈夫…何でもないから」
「何でもないわけがあるか」
「っホントに…」
「お前がヤツの事を好きな事は知っているのだよ。…アイツの言葉は…いちいち真に受けるな」
「…緑間くん」
「なんだ」
「緑間くんは、さ…」
「?」
キーンコーンカーンコーン
苗字が俺に何かを言い掛けた所で終業のチャイムが鳴った。
その音にビクリと体を揺らした苗字は、号令の後小さく『なんでもないよ』と言って教室を出て行った。


ガコン!

ガッコン!!
……
「緑間っち…」
「何も言うな黄瀬」
「でも」
「今日はラッキーアイテムが完全体で無かっただけなのだよ、その煽りだ」
「…緑間っちがそんな事言うなんて」
「お前もさっさと練習しろ。早く青峰を叩き潰せ」
「緑間っち、本音出ちゃってるッス」
「ふんっ」
今日の練習は今までで最も調子の悪いものとなった。
絡んで来る黄瀬をあしらってシュート練習に没頭する。
奥のコートで至っていつも通り軽々とフォームレスシュートを披露する青峰に苛立ちを覚えたが、それ以上視界に入れる事を止めた。
集中力を高めようと上を見上げ、深呼吸をしようとした所で俺の動きが止まる。
何故なら俺の視線の先、2階のギャラリーに苗字が居たからだ。
彼女の体はこちらを向いていたが目が合う事は無かった。
ホッとした様な残念だった様な妙な気持ちを携えながら、彼女の視線の先を確かめる事なく俺は視線を下げた。
そんなもの見なくても分かりきっている事だからだ。
それから練習が終わるまで、俺は苗字の居たギャラリーに目を向ける事は無かった。

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