純恋 | ナノ

十二

「うおっしゃぁ!オレ頑張った!」
「青峰くん煩いですよ。赤点ギリギリでそんなに喜ばない!」
英語の先生が騒ぐ青峰を制した。
苗字が青峰に教えていた英語の成績は、またギリギリとは言え赤点は免れたらしい。
隣でホッと息を吐く音が聞こえた。
他の生徒の答案が返される中、青峰が振り返り苗字を見た。
そして席を立ってこちらにやって来る様だ。
途端に隣の苗字の背筋が伸びた。
「苗字、サンキューな」
「ううん、全然。良かったね」
「おう!これでさつきも文句言わねーだろ」
「そうだね」
「お前のおかげだ」
「…違うよ」
「違わねーだろ」
「…青峰くんが」
「あ?」
「青峰くんが頑張ったから!なのだよ」
「「ブッ!!」」
ニッコリと笑って苗字が発した言葉に、目の前の青峰も隣の俺もそれぞれの捉え方で盛大に吹き出した。
青峰は腹を抱えて笑い出す始末だ。
「ぶはは!なんだよそれ!緑間の真似か?」
「そうなのだよ」
「なッ!苗字!!」
「や、止めろ!くははッ腹いてえ!」
「だってさっきの言葉は緑間くんの受け売りだもん」
「なんだよ緑間、そんなくっせー事コイツに言ったのかよ!」
「う、ううう煩いのだよ!お前には勿体ない言葉だ!お前が赤点を免れたのは苗字のおかげなのだよ!」
「何キレてんだよ。つか顔赤いぞお前……あー」
「な、なんだ」
「?」
「もしかしてお前、苗字の事好きなのか?」
「…」
「…」
青峰の言葉に2人が固まる。
状況を飲み込むのに数秒の時間を要した。
「「!?」」
「…マジ?」
「ッな、な、何を!何を言っているのだよ!」
「うお!落ち着けよ緑間!」
「これが落ち着いてなど居られるか!お前はッ!お前に何が分かると言うのだよ!!」
「おいおい、そんなカッカする事ねーだろ。ジョーダンだって」
「冗談…だと?」
「あ?」
「………ふんっ…当然だ」
「…緑間くん?」
「俺に恋愛感情などというものは不要だ。俺が苗字を好きになるわけが無いのだよ」
「あっそ。ま、んな事どーでもいいけどな。オレには関係ねーし」
「ッ」
「青峰…貴様…」
冗談なら良かった。
そうだ、こんな苦しい思いをするのならば『冗談』で片付くものであって欲しかった。
不覚にも黄瀬に気付かされた彼女に対する想いを、今ここでこの様な形でハッキリと自覚する事になろうとは。
そしてそれと同時に出て来た『否定』の言葉は、彼女の負担になってはいけないという思いからだった。
彼女を笑顔にするのは俺ではなく今目の前に居る青い髪の男だ。
その役目が自分だったらと何度考えた事か。
『冗談』という形で今幕を閉じた俺の想いは報われる事はないだろう。
だが彼女の為になるのならばそれでいいと思えた。
いつから俺はこんなに女々しくなったのだろうか。
やはり俺に『恋心』など不要だったという事だ。
黄瀬がなんと言おうと俺にはもうバスケだけで十分だ。
そう言い聞かせて、席に戻って行く青峰の背中に鋭い視線を投げた。
どうかこれ以上彼女を傷付けないでくれ、と。

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