純恋 | ナノ



試験に向けて誰もが本格的に勉強を始めた。
勿論俺も人事を尽くして勉学に励んでいる。
昼休み、向こうで青峰に英語を教えている苗字が見えた。
青峰に顔を覗き込まれて顔を真っ赤にしている。
話し声が聞こえて来た。
「なんだよお前、熱でもあんの?」
「な!無い無い!」
「つかもう止めようぜ、疲れた」
「まだ5分しか経ってないよ」
「5分やったら上出来だろ」
「青峰くん、卒業出来なくなっちゃうよ」
「どーせバスケ推薦だし関係ねーよ」
「あ、青峰くん!寝ちゃダメ!」
「あー、無理」
「……はぁ」
気付けば俺は席を立って2人の所に向かっていた。
俺に気付いたのか机に突っ伏していた青峰が気怠げに顔を上げる。
俺は眉を顰めて青峰を見下した。
「あ?なんだよ緑間」
「青峰、苗字が時間を割いて馬鹿なお前に教えてやっているのだよ。しっかりやれ」
「緑間くん!」
「…はぁ?なんでお前にそんな事言われなきゃなんねーんだよ」
「俺でなくても言いたくもなるだろう。苗字に失礼なのだよ」
「さつきが勝手に言い出した事だろーが。オレはいらねーっつったんだよ」
「な!」
「そ、そうだよね!青峰くんが嫌ならもう止めるよ」
「おい苗字!」
「おー、そうしてくれ」
「青峰!貴様!」
「んだよ緑間!お前さっきからうぜーぞ」
「…なんだと」
「み、緑間くん!行こう!ね!」
「苗字」
「ふぁー、じゃーなー」
青峰はヒラヒラと手を振ってまた机に突っ伏した。
俺はそれを見下して1人怒りに震えていた。
当然それに気付くはずもない青峰は呑気に寝息を立て始める。
深い溜息を吐いて眉間を摘まんだ。
「緑間くん」
「!」
「溜息」
「…ああ、何か幸せを逃したかもしれないな」
「ふふ、大丈夫だよ。だって人事は尽くしてるんでしょ?」
「!ああ…当然だ」
苗字の言葉に何故か気分が軽くなった俺はやっと冷静になった。
青峰と苗字の事に躍起になって首を突っ込んだ自分を恥じた。
俺が出て行かなくてもあの後解決したかもしれない。
俺が青峰を苛立たせたから苗字にあんな事を言わせてしまったのかもしれない。
そう考えたら今度はどうしようもなく自分が嫌になった。
全く…情けないのだよ。
また溜息を吐きかけた時、俺に向かって苗字が笑った。
「ありがとう」
「!」
そう一言告げて先に1人で席に戻った苗字を呆然と見つめた。
ありがとう、だと?
何に対してだ。
俺は彼女にとってプラスになる様な事は何もしていないのだよ。
そう思うのに、彼女が笑顔を向けてくれた事にじわじわと喜びが込み上げて来た。
席に着いた苗字を見遣ると目が合った。
そして彼女はまた笑った。
「緑間くん」
「な、なんなのだよ」
「数学、教えて欲しいんだけど」
「…お前に教える必要はないだろう」
「分からない所があるの」
「…」
「ね!」
「し、仕方ないから教えてやるのだよ」
「お願いします、先生」
「俺は厳しいぞ」
そう応えて口元を上げれば苗字が目を見開いて俺を凝視した。
前にもこんな事があった様な気がする。
俺が笑うのはそんなに珍しい事だろうか。
可笑しいだろうかと少々不安になったが、席に着いた俺を見る苗字の目が優しく細められた事に俺は安堵した。

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