「んあ?」
予鈴の音で目が覚めた。
いつの間にか寝ちまったらしい。
フケるかと思ったがさずがに次の教科は休み過ぎてるヤツでやばそうだ。
のっそりと立ち上がって屋上を後にした。
ここの階段は静かだ。
大抵どいつも逆側の階段で屋上に行く。
遠回りだがオレは人が居ないこっちをよく使ってる。
いつも通り声1つ響かない階段をダラダラと下った。
最後の踊り場に差し掛かった時、階段の一番下に蹲る何かに気付いて立ち止まる。
こええよ、びびったじゃねーか。
女が1人蹲ってた。
気分でも悪いのか寝てんのかピクリとも動かねえ。
当然関わんの面倒だしそのまま通り過ぎる事にして足を進めた。
ペタっとやけに自分の足音が響いた気がしてまた一瞬立ち止まる。
思った通り、蹲ってた女が物音に気付いたのかむくりを顔を上げた。
そして恐る恐るっつう感じで振り向いたその女の顔を見た瞬間、オレの足は完全に止まった。
「!」
「!…お、お前」
「!!」
キーンコーンカーンコーン…
目が合った瞬間に本鈴が鳴り響いた。
「!」
「ッあ、おいてめッ」
「あ、あ、あげるッ!」
「うおッ!」
逃げ出したと思ったソイツは突然振り向き、オレに向かって何かを投げた。
条件反射でそれをキャッチする事に気を取られた隙にソイツは一目散に逃げ去った。
「ッ待、て………あ」
オレの手の中にあるのはチョコレート。
今吉サンも桜井も持ってた、そして中学ん時にオレに寄越してた…チョコレート。
相変わらず逃げ足はええんだよ…バーカ。
「…んだよクソ、ちったぁ可愛くなってんじゃねーか」
振り向いたアイツの顔は以前より大人びてて…そりゃそうだ、髪もちょっと伸びてるし化粧だってしてるみてえだった。
…おいおい、んだよコレ…。
「きも…」
微妙に顔が熱くなったみたく感じて、ダサ過ぎて死ぬかと思った。
マジでオレきも過ぎんだろ。
「青峰さん!あの、部活…行きませんか」
「…おい良」
「は、はいッ!」
放課後、わざわざオレの教室まで迎えに来た良。
部活に行く気はねーけど話は聞かせて貰う。
「お前のクラスの……あー、なんとか名前って女」
「あ、苗字さんですか?」
「おー、ソイツ」
「苗字さんがどうかしましたか?」
「今吉サンの女じゃねーの?」
「え?」
「付き合ってるかっつー事だよバカ」
「スイマセン!否、つ、付き合ってはいないと思うんですけど」
「…けど?」
「その、仲はいいと思います…よく2人で話したりもしてるので…」
「ふぅん」
…気に入らねー。
なんで今吉サンなんだ?
あんな腹黒眼鏡と話して何がおもしれーんだか。
「あ、青峰さんは苗字さんの事知ってるんですか?」
「…知ってる、か……」
「?」
「向こうはどうだか知らねーけど…オレは知ってるけどな」
「?そうなんですか?」
「お前とか今吉サンが会うより前に、オレらは知り合ってんの」
「そ、それは知りませんでした、スイマセン!」
まさか本当にアイツが桐皇に居るとは思わなかった。
良と今吉サンが持ってたチョコの包みを見てもしかしたらと思ったけどよ。
ポケットに突っ込んだチョコを取り出して口に放った。
最近食ったどのチョコよりも美味いと思ったのはきっとオレの気のせいだろ。
prev / next