Blue Rose | ナノ

第6話

「…、名前!名前!!」
「!?」
「ちょっと、どうしたのボーっとして」
「そ、そらちゃん…ごめん」
「もう、しっかりしてよ〜」
「…うん」
私は考え事で頭がいっぱいで何も手につかなくなっていた。
それは昼休みにあった出来事が原因だ。

お昼を食べてトイレを出た瞬間、私は見知った人を見掛けて身を強張らせた。
ピンクの髪に高校生とは思えないスタイルの良さ、可愛かった顔は少し大人びた様に見えるが見間違えるはずがない。
「…桃井さん」
青峰くんの幼馴染である『桃井さつき』という女の子だった。
彼女が居るって事はもしかして…
そんな考えに至ったけど確証はない。
桃井さんはきっとバスケ部のマネージャーをやっているんだろう。
彼女が敏腕マネだというのは有名だ。
幼馴染…だからって同じ高校に進学するだろうか。
だいたい彼が居たら絶対バスケ部で有名になっているはずだ。
あんな強いエースが目立たないわけない…
「…エース……!」
『エース』という響きで私は思い出した。
桜井くんの言葉だ。

『…ああ…ちょっと、部活に来ない人が居て…』
『今吉先輩は試合に勝てばいいって言うけど、あちらの…若松先輩は他の部員に示しが付かないって…いつもこんな感じで』
『勿論!桐皇のエースなので!』

「ま、まさか…ね」
仮にもしそうだったとしても今更会いに行ってどうなるんだろう。
勝手に期限付きで追い掛け回してチョコ押し付けていきなり告白して姿消して…そんな私が今彼に会ったとして、否会えるわけが無い。
むしろ彼の方が嫌な顔をするに決まってる。
ならまだいい。
もしかしたら忘れられてるかもしれない。
そう考えたら私は確かめる勇気さえ出なかった。


「苗字」
「!あ、今吉先輩」
「…どないしたん?」
「え?」
「顔色悪いで?保健室行くか?」
「え!大丈夫ですよ全然!」
帰ろうとした私を靴箱の前で呼び止めたのは今吉先輩だった。
首を傾げて私をジッと見つめて来る。
「大丈夫、か…それにしたって…なんや心此処に在らずって感じやな」
「!」
「お、図星か」
「ち、違いますよ先輩!ちょっと寝不足なだけです、昨日夜更かししちゃって」
「ほぉ…夜更かしは肌に良くないで?」
「はあ」
「アレか、恋煩いか」
「!」
今吉先輩の手が私の頬に触れた。
ビックリして目を見開いたら細目の奥の瞳と目が合って、なんだか全部を見透かされてしまう様な気がしてドキドキした。
「っはは、冗談や」
「も、もう!先輩!」
「堪忍堪忍。ワシに煩ってくれたんやろかと思うて期待したんやけどなあ」
「…え」
「っははは!やから冗談やて…今日はチョコくれへんの?」
「え!あ、ありますあります!」
「おお、おおきにな」
「いえ…部活、頑張って下さい」
「ん。苗字に応援されたら頑張れる気ぃするわ」
「大袈裟ですよ、先輩」
手を振って去って行く先輩を見送ってホッと息を吐いた。
今吉先輩は優しくて面白くて素敵だけど、彼の言動はいつもどこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない。
今私を悩ませている物の答えは多分先輩に聞けば一発で解決するんだけど、どうしても聞く気になれなかった。
…バスケ部のエースが誰なのか。

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