今日はちょっと気が向いたから部活に顔出してやる事にした。
部室でダラダラ着替えてると今吉サンが入って来た。
まだ制服のまま…遅刻か、珍しい。
そんな事考えてたら心読まれた、怖。
「ん?ああ、先生に雑用頼まれて遅れたんや」
「…聞いてねーし」
「っはは、相変わらずやな…あ」
「?」
「あかん、溶けてるやん」
「何スか」
「昨日貰ったチョコ、食べんの忘れとったわ」
「チョコ?」
「ああ、後輩から貰ったんやけどな」
バレンタインでもねーのにチョコかよ。
…後輩、か。
「勿体ない事したわー」
「後輩って…こないだの女か」
「ん?なんで女の子って知っとるん?」
「こないだ、玄関んとこで見たんだよ」
「そうなんか、かわええやろ?」
「さあ、顔見てねーし」
「っはは、そうか。苗字っちゅうんやけどな、桜井と同じクラスで明るくてめっちゃええ子やで」
「そいつ彼女なんじゃねーの」
「彼女?ああ、彼女んなってくれたら楽しいかもなぁ」
「ふぅん…どーでもいいけど」
何を妄想してんだか、ニヤニヤし始めた今吉サンを置いて体育館に向かう。
チョコか…
チッ、眼鏡のせいでまた余計な事思い出したじゃねーか。
悪態を吐いて両手をジャージに突っ込んで息を吐いた。
溜息じゃねー、息抜きってヤツだ。
途中から監督まで出て来やがって帰り損ねたオレは結局最後まで部活に出た。
ま、本気なんかこれっぽっちも出やしねーけど。
着替えを済ませてバッグを担いだ所で良が突然発狂した。
ったく、うるせーよ。
「うあああ!と、溶けた!あ、スイマセン!騒いでスイマセン!」
「ん?溶けたて、お前もか桜井」
「え!」
「チョコや、チョコ。もしかして桜井も苗字から貰ったんとちゃう?」
「え、あ、ハイ!そうです!」
「なんやあの子ワシだけやないんかぁ」
「や、なんかスイマセン!」
「っはは、謝らんでええよ」
またチョコの話だ。
なんなんだ、その苗字って女。
なんとなしにチラリと良の手元を見てオレは目を見開いた。
「…おい良」
「え!あ、なんですか青峰さん」
「それ、ちょっと見せろ」
「え?」
「それだよ!包み紙!」
「包み紙?ッあ」
良の手からチョコの包み紙を奪い取ってまじまじと見てみる。
この透明な包み紙…
見覚えがあり過ぎたオレは、知りたい様な知りたくねえ様なよく分かんねえ気持ちのまま良に答えを求めた。
「そいつ…そのチョコ寄越したの、誰だよ」
「え、今吉さんが先程言ってた苗字さんですよ。同じクラスの」
「だぁーから!名前だよ名前!」
「だ、だから苗字」
「ちっげーよボケ!下の名前だ!」
「は!す、スイマセン!スイマセン!」
「で?」
「はい!名前さんです、苗字名前さん」
「……名前」
「はい…青峰さん?」
「マジかよ…いや、でもまだ分かんねーだろ」
「あの、どうかしましたか?」
「…なんでもねーよ」
「?」
ポカンとする良を放置して考える。
…名前。
同じ名前のヤツなんか何処にだって居る。
けど『チョコレート』がどうしたってアイツを連想させた。
だからってもしその女がアイツだったとして…会ってどうする。
つうかわざわざ会いになんか行ったらオレが探してたみたいですげえカッコわりぃじゃねーか。
だいたいアイツは引っ越したとか言ってたしよ。
オレと同じ高校に居るわけねーだろ。
つか何考えてんだよ、オレは。
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