桜井くんを通して知り合った今吉先輩と私は頻繁に話す様になっていた。
廊下ですれ違う時もあれば桜井くんへの連絡がてら今吉先輩が教室に来て話す時もある。
そんな時はクラスの友達に冷やかされた…別にそういうんじゃないんだけど。
今吉先輩、実は結構人気があるらしい。
「今吉先輩、さっきクラスの子が先輩の事カッコイイって言ってましたよ!モテますね!」
「ほんまかぁ?誰やろ、どの子ぉ?」
「ええ!探すんですか!うわぁ」
「冗談やって。告白してくれるん大人しゅう待っとるわ」
「それもなんかうわぁ」
「なんやねん!」
笑い合い、今吉先輩の手が私の頭をポンポンした。
今後ろで悲鳴が上がったの、先輩聞こえてるんだろうか。
そんな事を考えていたら予鈴が鳴って皆がバタバタと動き出す。
ふと思い出した私はポケットに手を突っ込んで目的の物を取り出した。
「今吉先輩、お土産です」
「ん?なんや?チョコか、おおきにな」
「いえいえ!じゃあ、また」
手を振って帰って行く今吉先輩を見送った。
チョコレート、今でも持ち歩く癖は変わってない。
彼の事を思い出してちょっと切なくなるけど、私にとっては大切な思い出だ。
下校時間になった。
でも私には家に帰る前に行く所がある。
体育館…桜井くんの所だ。
帰りのHRが終わって部活にダッシュしてしまった桜井くん。
私は借りっぱなしのノートを返せないでいた。
復習で使う物なので今日中に返さなければならない。
ダンダンとボールを突く音が聞こえる。
バスケは嫌いじゃないけど、これも彼を思い出す要因の一つでやっぱりちょっとだけ切なくなる。
きっと今も何処かでバスケをしているんだろう。
ふと、体育館からコロコロと転がって来たボール。
それをちょうど桜井くんが取りに出て来た。
探す手間が省けてちょっとラッキー。
「桜井くん!」
「苗字さん!?」
「練習中ごめんね。ノート返し忘れてて…どうもありがとう」
「いえ!スイマセン!なんか、足運ばせちゃって」
「ふふ、謝るのこっちだから。あ、今吉先輩だ」
遠くに見えた先輩、手を振ろうと思ったけど怖そうな部員さんが隣に居てそれは出来なかった。
なんだか揉めてる感じ?
その怖そうな短髪さんが今吉先輩に何か抗議しているように見える。
私の視線の先を辿って気付いたのか桜井くんが説明してくれた。
「…ああ…ちょっと、部活に来ない人が居て…」
「そうなの?」
「今吉先輩は試合に勝てばいいって言うけど、あちらの…若松先輩は他の部員に示しが付かないって…いつもこんな感じで」
「そうなんだ…その来ない人ってそんな強いの?」
「勿論!桐皇のエースなので!」
「へえ…エースか…」
「本当に凄く強いんだけど…なかなか来てくれなくて」
「バスケ部も大変なんだね…あ、ごめん引き留めちゃって」
「あ、こっちこそ!なんかスイマセン!」
「っふふ、じゃあ、また明日ね」
「うん!また!」
桜井くんと別れた私はまた彼の事を思い出していた。
バスケ部のエース。
白いユニホームに色黒な肌、楽しそうな笑顔、飛び散る汗…思い浮かべてなんだか眩しくなって目を細めた。
「青峰くん…元気かな…」
自分の口から久しぶりに出て来た名前。
気持ちを告げて終わりにするつもりだった。
でもきっとまだ私は…
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