Blue Rose | ナノ

第22話

この階の少し手前で足音が止まった。
人違いだったかと少しガッカリする。
けれどそれは思い違いで、今度はゆっくりとした足取りでこちらに向かって来るようだった。
ドキドキと心臓が高鳴る。
目の前のキャンバスに描かれた青い薔薇を見ながら、その色がまるで彼を表しているかの様で少し恥ずかしくなった。
「…あんなメモ気付かねえよ、バカ」
「!」
響いた低い声に顔を上げる。
そこにはキャンバスの薔薇と同じ青い髪を持つ彼が立っていた。
少し息が上がっているのが愛しくて仕方ない。
きっとさっきまで走って来てくれたんだろう。
途中から速度を緩めた所が可愛いと思った。
バレてるのに。
「でも青峰くんは気付いてくれたから来てくれたんでしょ?」
「…うるせえ」
「青峰くん、あのね、」
「待て、お前何言うつもりだよ」
「え?」
「また言い逃げしてチョコ投げ付けてどっかに姿眩ませる気か?」
「…え?」
真面目な顔でそんな事を言う青峰くんに私は目をしばたたかせるしかない。
一歩距離を詰めた青峰くんが更に続けた。
「オレはあんなのもう御免だからな」
「!」
「今度はもう逃がさねえから」
「え、ちょっと!ッ!?」
私は更に近付いた青峰くんの腕の中に納まった。
顔が熱くて心臓が壊れてしまいそうだ。
「言いたい事ってなんだよ、今ここで言え」
「そ、それはッ」
言い掛けて口籠る。
だってこの状況で言えるわけない。
イメトレしてたのはこんな、抱き締められた状態じゃない。
何も言わない私に痺れを切らしたのか青峰くんが更に私を抱き込んだ。
「引っ越したお前とこうやって再会なんて、さすがにもう次はねえだろ」
「え」
「こんな奇跡、二度と起こんねえって言ってんだよ。だから…」
「…」
「今度は勝手に逃げんな、マジで」
「あ、青峰くんッ」
「それから過去形止めろ」
「え?」
「好きだったとか止めろ」
「!」
「オレはアレだ、現在ナントカ形」
「!?」
「お前は?」
「ッ私は!」
答えなんてとっくに出てる。
ていうかナントカ形って、何!
けどそれだけで意味を悟ってしまった私は緊張と嬉しさと信じられない気持ちで言葉にならない。
私をしっかりと抱き締める腕の中で身動ぎした。
ふと視界に入った青に目を向ける。

その美しい作品のタイトルは…
『Blue Rose-奇跡-』
まるで今の私たちを現したかの様なそのタイトルに震えた。

「青峰くん」
「…なんだよ」
「私青峰くんが好き」
「っそ、そうかよ」
「前よりずっと、現在進、行、形、で」
「…ああ、そうかよ」
青峰くんの広い背中に私も腕を回した。
ギュっと力を込めれば仕返しとばかりに締め上げられた。
可笑しくて笑いを零せば青峰くんも笑った。
青峰くんの言う通りかもね。
こんな事、きっともう二度と起こらない。
この奇跡を大切にしたい。

【作品名】
Blue Rose-奇跡-
【作品解説】
青い薔薇は人工的に生み出された物故、当初の花言葉は「不可能である」「有り得ない」だった。開発によりブルー・ローズの誕生を実現させた事で、「奇跡」「神の祝福」という花言葉が作られた。
これはそんな「奇跡」「神の祝福」を表現した作品である。


名前も知らない制作者の描いた青い薔薇に祝福された気になって、私たちは初めてのキスを交わした。

END
20140821

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