「おい良!」
「!あ、ああ青峰さん!」
アイツが部活を見に来た翌日。
オレは迷う事無く良のクラス、つまり名前のクラスに向かった。
名前と話してる良を見つけて呼び出す。
なんとなく目を合わせ辛くてアイツの方は見なかった。
「おい、聞いたかよ」
「はい!今聞きました!」
「…なんだって」
「昨日はバイトだったそうです」
「バイト?」
「はい。今吉さんも先生に呼び出されたような事言ってましたし」
「…そうかよ」
昨日なんで名前が途中で帰って行ったのか気になったオレは、良に明日聞いておけと言ってから帰宅した。
アイツが体育館を出た後すぐ今吉サンも出て行った。
胸糞悪かった。
その後の部活の内容なんか覚えてやしねえ。
ただイラついてさつきに文句言われて嫌んなって帰った。
「…青峰さん」
「あァ?んだよ」
「す、スイマセン!でもあのッ」
「…」
「苗字さん、笑ってました」
「は?」
「青峰さんの事を考えながら」
「…バカにしてんのかそれ」
「ち!違います!違いますよ!!」
「ああ?」
「青峰さんもそのうちきっと分かりますよ」
「はぁ!?てめえ何偉そうな事言ってんだコラ」
「は!!スイマセン!スイマセンスイマセン!」
謝りながらも珍しくオレに意見してくる良。
そのうちきっと分かる?
何が?
その答えはアイツが教えてくれんのか?
ニッコリ笑った良を睨み付けてやればまた謝って戻ってった。
…今日も部活来んのか、アイツ。
それも良に聞かせておけば良かったと少し後悔した。
「あ!青峰くん!」
「あ?」
何度か聞いた事のある女の声にゆっくり振り向く。
名前といつも居る女だ…名前なんか忘れた。
そいつはオレの威嚇に怯む事無く近くまで来た。
「青峰くん、今日部活出ないよね?」
「…はぁ?」
「だから、部活!今日はサボるんでしょ?」
「なんでそう思うんだよ」
「だって昨日出てたし、続けて出る事なんて滅多にないって聞いたから」
「…良か」
「で?どうなの?」
「そんなん知るか。そん時の気分だ」
「えー、今日は帰りなよ」
「なんでだよ」
「いいから、ね!」
「うぜえ、どっか行け」
「あー!もう、相変わらず素っ気ないね」
「…」
「あっ、名前〜ッ!」
「そらちゃん!」
「!?」
遠くに向かってアイツの名前を叫んだ女。
その大分向こうから名前の声が聞こえた。
駆け寄る足音にオレは思わずその場を後にする。
会いたくないわけじゃねえ。
なんとなく、顔を合わせ辛いだけだ。
アイツがオレを探してるとも思わなかったが、意外にも本人から声が掛かった。
「青峰くんっ」
「…なんだよ」
オレが気怠げに振り向いてすぐ、久しぶりに聞くアイツの元気のいい声が響いて…
「はい!」
「は!?ッな、!?」
チョコレートが飛んで来た。
思わぬ事態にオレは大層間抜けな面をしてたと思う。
けどアイツは構わず続けた。
「チョコ、あげる!」
「!」
懐かしいやり取りにオレの動きは完全に停止した。
込み上げて来る何かが喉元で詰まって気持ちわりぃ。
手の中にあるチョコを見てから正面を向けば、名前が笑った。
「じゃあね!」
情けない事にオレは暫くその場を動けなかった。
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