「んだよ、さつき」
『青峰くん!今何処にいるの!?』
今日ラストの授業から帰りのHRまで爆睡してたオレはさつきからの電話で目を覚ました。
時計を見ればもう部活も始まってる時間だ。
オレには関係ねえけど。
受話器の向こうでよく分かんねえバカ騒ぎしてるさつきに、いつも通り部活に出る気は無い事を告げる。
「うるせえな、今帰るとこだ」
『ちょっと待った!帰っちゃダメ!』
「はぁ?なんでだよ」
『いいから!今日は部活来て!』
「ふざけんなよ。もう帰る気満々だっつの」
『駄目駄目駄目駄目!絶対後悔するんだから!』
「はぁ?意味分かんねえよ、切るぞ」
『いいの?』
「だから何がだよ!」
『苗字さん、体育館に居るよ?
「………は?」
通話を切って帰る準備の出来ていた荷物を引っ掴む。
それからのオレは自分でも気持ちが悪い程にまっすぐ体育館に向かってた。
誰もいない部室で着替えながら考えた。
なんで名前が体育館に?
…ああ、今吉サンでも見に来たってわけか。
けど…もしそうだったとしても何故かオレはアイツの顔が見たかった。
やけに重く感じるドアをガラリと開ける。
ちょうど反対側の位置に、名前は居た。
目が合った瞬間アイツの体が跳ねる。
けど視線は合わさったまま逸らされる事は無かった。
ふと気になって今吉サンの方に視線を向ける。
特に何か気にする様子も無くいつもの表情で部活を進めていた。
視線を戻せば、アイツは未だじっと逸らす事無くオレの事を見ていた。
コートサイドでアップするフリをしながら歩く。
向かう先は勿論アイツの居る場所だ。
一緒に居た…誰だっけ、なんとかって女はアイツの肩を叩いて体育館を出て行った。
名前の少し手前で体の向きを変え背を向ける。
ストレッチをしながら斜め後ろに立つ名前に話し掛けた。
「よぉ」
「う、うん」
話は続かない。
当たり前か、大して多く話した事なんかねえんだから。
でもなんでかこうやって近くで話してる事が不思議で、変に擽ったい気分だ。
「何してんの、お前」
「見学、だよ」
「へえ…バスケ部にでも入んのか?」
「まさか!違うよ」
「じゃあなんだよ」
「…」
黙りこくった名前の方に肩を回しながら視線を飛ばす。
また目が合った。
「見に来たの」
「あ?」
「見に来たの、青峰くんを」
「……は?」
素っ頓狂な声が出た。
見に来た、オレを?
今吉さんじゃなく?
ストレッチが完全にストップして目を見開いた。
オレを驚かせた本人は、こっちが怯みそうな程強い視線をオレに向ける。
「今日は部活出てるんだ」
「…たまにはな、飽きたら帰る」
「私、」
「あ?」
「ちょっとだけ見学していくよ」
「…は」
見学していく、か。
『待ってる』ってわけでもなさそうだ。
それに見てんのも今吉サンかもしれねえし。
けど、珍しくオレのやる気を出させた事に変わりはない。
だせえな。
だっせえけど、悪くねえ。
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