Blue Rose | ナノ

第16話

「今吉先輩」
「ん?ああ、苗字か。どないしたん?」
「あの…」
「ああ、もしかして…答え、出してくれたん?」
そう言ってゆっくり私に近付く今吉先輩の表情からはいつもの様に内面が全く読み取れない。
今吉先輩は優しくて素敵だけど、たまにそこが怖いなと思ってたりもする。
今日私は今吉先輩にちゃんと断る気でやって来た。
女子の先輩たちの目に怯えながら教室から先輩を連れ出す事に成功した私は、あまり一目の触れない廊下の隅で立ち止まった。
「すみません、呼び出したりして」
「ええよ。苗字ならいつでも大歓迎や」
「…」
ニッコリと微笑んだ今吉先輩にこれから伝える事を思うと胸が痛む。
緊張してなかなか言い出せない私を先輩は微笑みを絶やさないまま見つめてくる。
私は意を決して言葉を紡いだ。
「今吉先輩」
「ん?」
「この間の…お返事なんですけど…」
「うん」
「あの…私、」
「苗字」
「は、はい」
私の言葉は遮られ、今吉先輩は張り付けた様な笑みを浮かべて私を見ていた。
やっぱり何を考えているのか分からなくて怖くなる。
「なんとなく何て言われるか検討はついてるんや」
「!」
「その前にな、聞きたい事あってん」
「聞きたい事、ですか」
「苗字がいつもチョコレート持ち歩いとる理由」
「え」
「と、青峰との関係」
「!」
私はビックリして今吉先輩を凝視してしまった。
けれど笑顔で細められた目からは瞳を覗く事は出来ない。
「ど、どうしてですか?」
「やって、興味あるやん?」
「え?」
「桃井以外の女子に興味示す青峰なんて」
「…興味なんて、持ってないですよ」
「ん?」
「私が勝手に、想ってただけですから」
「…」
「私が一方的に話し掛けて、チョコあげてただけなんです。それだけです」
「…」
俯いて、言う気なんてなかった事を今吉先輩に告げた。
急に静かになった今吉先輩を不思議に思いつつも、今日呼び出した理由である告白の返事を告げようと顔を上げた。
だけど…
「それからお返事なんですけど……ごめんなさ」
「ストップ、や」
「え」
「現在進行形なら諦めついたんやけどなぁ…過去形なら話は別や」
「え?」
「忘れさしたるよ」
「い、今吉先輩?」
「青峰ん事、ワシが忘れさしたる」
「!」
そう言って今吉先輩が私を引き寄せる。
すっかり呆気に取られていた私は引き寄せられるままに今吉先輩の腕の中に納まる。
驚きと共に私が感じたのは少しの安心。
それは、先輩なら本当に忘れさせてくれるかもしれないなんていう『甘え』。
大きな優しい手に頭を撫でられて、私は何も言えずにただ俯いた。
私の中に居座るのは彼ただ1人なのに。

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