「クソ眼鏡……邪魔なんだよ」
屋上に寝転がって悪態を吐いた。
せっかく捕まえた名前との時間を邪魔されたオレは苛立ってた。
理由なんかもう考えなくても分かってんだよ。
あー、オレだせえ。
そういや結局今吉サンと一緒に帰るのか?
部活完全休みにしたの、アイツと帰る為とかじゃねえだろうな。
モヤモヤして仕方ない。
鉢合わせないように授業フケるか。
とか思ってたけど結局オレは最後までつまらない授業に出て下校時間を迎えた。
いつも通り教室を出ていつも通り靴を履き替える。
玄関を出た少し先に…見つけた。
今吉サンと、隣に並んで歩く名前を。
無性にイライラしてあの眼鏡の背中を蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られる。
今ここでオレが行けばアイツはオレと一緒に帰るだろうか。
今吉サンと3人で帰ろうと言い出すだろうか。
オレに謝ってそのまま2人で帰って行くだろうか。
最後に浮かべた可能性がデカイ気がして、2人が校門を出たのを見計らって歩き出した。
「ったく。なんでオレがこんな事しなきゃなんねーんだよ」
発散出来ない苛立ちを抱えたまま家に帰った。
次の日、オレの苛立ちは益々デカくなる事になった。
「青峰〜」
「……なんだよ、アンタか」
「酷いなぁ、そんなガッカリすなや」
今吉サンが屋上に来るとか多分初めての事だ。
寝そべったオレの真上に顔覗かせやがって、胸糞ワリィ。
睨み付けてやれば厭らしい笑みを張り付けてオレを見下ろす。
腹が立って立ち上がったらアッチは逆にオレの横に座りやがった。
益々腹が立ってその場を立ち去ろうとすれば見計らったかのように話し出した。
「なぁ青峰」
「…」
「チョコレートになんか思い出でもあるん?」
「…はぁ?」
「いやな、昨日苗字と帰ってんけどな」
「…」
「よくチョコくれるし持ち歩いとるみたいやから聞いたんや」
「…何をだよ」
「青峰にもやっとるんか?って」
「…」
座った位置からオレを見上げた今吉サンがまたニヤリと笑った。
どんな答えを期待してんのか知らねえけど教えてやる気は更々ない。
「さぁな」
「中学も一緒やったんやろ?苗字はそん時からチョコ持っとったん?配るん趣味なんやろか?」
「…オレが知るかよ」
「…せやな、聞く相手間違えたわ」
「分かってんなら聞くなよ」
「堪忍な。青峰の話んなると苗字が大人しゅうなるから、気になったんや」
「…」
思ってもないくせに申し訳ないと眉を下げる眼鏡に嫌悪しか湧かない。
立ち上がってオレの横をすり抜け扉に向かう。
コレ言う為だけに来たのかよ。
つうかさっきのって…今吉サンに中学ん時の事バレたくねえって事かよ。
だからオレの話になると何も言えねえのか。
「ふざけんなっつの」
思わず零れた独り言に自嘲めいた笑いが漏れる。
ふと背後から声が響いた。
「青峰ぇ。ワシな、苗字にもろうたチョコが一番美味いと思うんやけど…なんでやろな」
「…」
苛立ちが最高潮に達して勢いよく振り向く。
と同時に扉が閉まって既に今吉サンの姿は消えてた。
その台詞てめえが言うんじゃねえよ。
そんなの、オレの方がずっと前から思ってる。
教室に戻る気になどなれず、オレはもう一度地べたに寝そべった。
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