「名前、何かあった?」
休み時間。
そらちゃんが心配そうに私を覗き込んで来た。
そらちゃんはこうやっていつも私の異変に気付いてくれる。
彼女に黙っているのも1人で悩むのも辛くなった私は帝光時代の事を全部打ち明けた。
そして私は情けなく笑ってから、昨日あった事もポツリポツリと話し出した。
青峰くんが荷物運びを手伝ってくれた事も、今吉先輩と帰った事も。
『なんや、悪かったな』
『え?何がですか?』
『いや、苗字は青峰と帰りたかったんかなあとか思てな』
『な、なんでですか?』
『…なんとなく、そう思うただけや』
『…』
『あ、否定なしか』
『!』
『っはは!堪忍な、苛めてるわけやないんよ?』
『苛めだなんて』
『なんや青峰も苗字に思い入れあるみたいやし』
『…思い入れ?』
『チョコ』
『!』
『苗字と青峰と、なんか関係あるん?』
『無いです、別に…』
『そやろか?ま、ええわ。でも…』
『?』
『過去をズルズル引き摺るんやったら、ワシにしたったらええと思うんやけど…今ならお勧めやで?』
あの日の帰り道。
お道化て言う今吉先輩に何も言葉を返す事が出来なかった。
笑って誤魔化せば良かったのにそれさえも。
結局今吉先輩が色々気遣ってくれて他の話題になった。
それでも気まずい空気は拭いきれなくて、先輩に凄く悪い事をしてしまったなと後悔している。
全てをそらちゃんに打ち明けて大きく息を吐くと凄い力でバシッと背中を叩かれた。
「いった!」
「もう!水臭いんだから!」
「…ごめん」
「こないだ!青峰くんの話題出た時おかしいなって思ってたんだよ、急にトイレとか言って出てくからさ」
「バレてましたか」
「そういう事だったとは……なら青峰くんきっとあの時、」
「あの時?」
「探してたの、名前の事だったんだ」
そらちゃんが青峰くんと話した時の事を教えてくれた。
『誰か呼ぶ?』
『あ?』
『誰か探してるんじゃないの?』
『は?』
『さっきからずっとこの辺にいるみたいだから』
『…なんでもねーよ』
『誰?居れば呼んで来てあげるよ』
『あ?』
『だから、呼んであげるから…誰?』
『…居ねえみてーだからいい』
『そう?…ねえ、背高いね。バレー部?バスケ部?』
『…バスケ』
『へえ、桜井くんと一緒だ!あ、ちょっと!もしかして桜井くん?ならもうすぐ戻るよ?』
『うるせーな、もういいっつってんだよ』
『え?いいの?』
青峰くんが私たちのクラスの辺りに来ていたらしい。
知らなかった。
桜井くんを探していた可能性が一番だけどもしかしたらっていう気持ちもあった。
だとしたら嬉しい。
純粋に出て来た想いに私は再確認した。
青峰くんが好きなんだって。
今吉先輩にはしっかりごめんなさいしなきゃいけない。
そう心に決めた。
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