「あ!青峰くん!」
「あ?」
廊下で呼び止められて振り向くと良のクラスの女が立ってた。
こないだ『誰を探してる』だの『呼んであげる』だのしつこく言って来た女だ。
…つうか、なんで名前知ってんだよ。
顔全体でめんどくせーアピールしたってのにソイツは気にせず話し出した。
「あ、桜井くんから聞いてさ。私、澤田そら。名前の親友」
「…あっそ」
「青峰くんって名前と中学一緒だったんでしょ?」
「…それがなんだよ」
「私、名前の帝光時代の事色々聞きたいんだけど。あの子、どんな子だった?」
「はぁ?」
「ああ。私ね、名前が転校して来てからの付き合いなんだ」
「…なんでオレにそんな事聞いてくんだよ」
「え、だって私より先に名前と知り合ってるんだし、オモシロ話とかなんかネタ無いかなーと思って」
「…知るか」
「え、あ、ちょっと!青峰くーん!」
馴れ馴れしい女を無視して屋上に向かう。
諦めたのか着いて来る事は無かった。
カラカラに晴れた空を睨み付けて定位置に寝転がって息を吐いた。
『だって私より先に名前と知り合ってるんだし』
さっきの女の言葉を思い出して舌打ちをかます。
「…知らねーよ…たった2週間だぜ?」
そうだ。
たった2週間。
突然現れて突然居なくなった勝手な女の事なんかオレが知るわけねーだろ。
苗字だってつい最近知ったんだからな。
オレが知ってたのは名前と、チョコが好きだっつー事と、アホみてーに明るいって事と、オレの事を『可愛い』だとかほざくバカだって事と、笑った顔が…
だぁ、めんどくせー。
なんでオレがこんな事考えなきゃなんねーんだよ。
『私、ずっと青峰くんの事好きだったよ』
人の言った事なんか即忘れる超省エネ仕様のオレの脳ミソと耳に、あの時の言葉は気持ちわりぃ位にこびり付いてずっと残ってた。
「…だった、って…過去形じゃねーかよ」
きっとその言葉の通りだ。
アイツは今多分、あの腹黒眼鏡の事でも好きなんだろ。
良も仲がいいって言ってたしな。
…いいじゃねーか別に。
オレには関係ねーよ。
イラつく程に青い空を睨み付けて、オレは目を瞑った。
「青峰くん!起きて!青峰くんってば!」
「……んだよ、さつきか」
「なんだよって…いっつもソレばっか」
「あ?」
「私じゃなくて誰を期待してたの?」
「はぁ!?」
目覚めは最悪。
つうか何言ってんださつきのヤツ。
期待?誰も期待してねーよ。
「ふふーん…苗字名前さんとか?」
「ッはぁ!?」
さつきの口から出て来た名前に思わず飛び起きた。
何やってんだよ、オレは…。
「あ、嘘、図星?」
「ッは、ちげーよ、バカか!つうかお前アイツの事知ってんのかよ」
「知ってるも何も同じ帝光だったじゃん!転校しちゃったけど」
「な、なんで知ってんだよ」
「この私を舐めて貰っちゃ困りますねー」
「だから、なんでソイツの名前が出て来んだって聞いてんの!」
「ああ、さっき廊下で会ったの。すっごいビックリしてたけど、数少ない元帝光生だし話し掛けちゃった!」
「…何やってんだよ、ったく」
「今吉先輩も一緒に居たからっていうのもあるんだけどね」
「……そうかよ」
起き上がった体をもう一回地面に沈めて、続くさつきの話を聞いた。
『お、桃井やん』
『あ!今吉先輩!と、あ!…苗字名前さんだよね!』
『!!う、うん』
『私桃井さつき!元帝光なんだけど、知ってるかな?』
『…うん、勿論。帝光生で桃井さんの事知らない人は居ないと思うよ』
『ええ?それって私じゃなくて青峰くんじゃない?』
『!うーん…2人共、かな』
『なんや苗字、自分帝光やったん?確か桜井と同じやなかった?』
『あ、元々は帝光で…転校して桜井くんと同じ中学になったんです』
『そうなんや?なら青峰ん事も知っとるやろ』
『あー…はい』
『そうなの!?お友達!?』
『や!全然、友達とかそういうんじゃ…ホント、全然』
『?そっか。でもまあ元帝光生同士、青峰くんと仲良くしてあげてね?』
『あー、ははは』
目覚め最悪な上に余計気分悪くなる話聞いた。
なんだよアイツ。
まあ実際友達だとかじゃねーけど。
…ああ、そうか。
今吉サンが居る手前余計な事言えなかったってわけか。
所詮オレは過去形、過去の男ってヤツ。
『部活来なさいよ』なんてさつきの声が聞こえた。
誰が行くかよ。
今日は今までで一番行く気になんねーわ。
prev / next