どうしよう!
どうしようどうしよう!
居た、本当に本物だ。
本当に青峰くんが居た。
動揺を隠し切れないまま慌てて教室に滑り込み机に突っ伏した。
さっきの出来事が脳内をぐるぐる巡ってる。
階段に座り込んで蹲っていた私の後ろから突然大きな足音が響いた。
多分屋上からずっと響いていたはずのその音は考え事をしていた私には聞こえなかったんだろう。
顔を上げて振り向いた瞬間、これは夢で私はきっと蹲ったまま寝てしまったんだって思った。
目を見開いて驚いているその人はずっとずっと脳内で思い描いていた…青峰くんだった。
『…お、お前』
久しぶりに聞くその声はあの頃よりまた少し低くなった気がした。
と同時、私の体は全身が心臓になったみたいになった。
バクバクと物凄い音を立てる心臓を抑える。
こんな所で心の準備もなくいきなり再会して、正直どう接したらいいかなんて分からない。
嫌な汗が流れ始めた時、天の救いか始業を知らせる鐘が鳴り響く。
立ち上がった私は青峰くんの制止を無視。
ポケットから取り出したチョコレートを投げ付けた。
…何も成長してない自分にガッカリしながら。
そして青峰くんが怯んだ隙に逃げ出したんだ。
「セーフッ!!」
「名前、トイレ長い!」
「あ、ははは…」
「苗字さん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
教室に戻ると2人が出迎えてくれた。
急いで帰って来たけどこの時間は急遽自習になったらしく、代わりの監督の先生が既に居て読書していた。
監督とは名ばかりで生徒は放置するつもりらしい。
皆好き勝手やっている。
「ねえ名前、さっきのガングロくんの話なんだけどさ」
「…うん」
私が聞かずに逃げ出した『青峰くん』の話だ。
話を聞くよりももっと衝撃の再会を果たしてしまった私はそらちゃんの話に耳を傾けた。
「青峰くんだっけ?帝光の人らしいじゃん。名前知ってるんじゃない?」
「…うん、知ってる」
「帝光でもエースだったんだって、凄いね。今色々桜井くんから聞いてビックリした」
「そうだね…桐皇に来てもやっぱ凄い人なんだ…」
「うん!青峰さんはホント凄いよ!青峰さんが居れば負ける気がしない」
「背高いし、ちょーっと顔怖いけどまあイケメンだよね」
「そう、だね」
かっこ良かった、凄く。
ほんの一瞬しか見れなかったけど。
当たり前だけどまた背が大きくなってて、顔付きも大人びてて、声も低くなってて…
思い出しているうちにまた心臓の音が速まり始めた。
数日後、唐突に桜井くんが問い掛けて来た。
青峰くんの事だった。
「苗字さんは青峰さんと、その、友達みたいな?」
「え?と、友達?」
「この前青峰さんと、苗字さんの話になって…」
続く桜井くんの言葉に私は動揺した。
『向こうはどうだか知らねーけど…オレは知ってるけどな』
『お前とか今吉サンが会うより前に、オレらは知り合ってんの』
青峰くん、ちゃんと私の事覚えててくれてたんだ。
この間の思わぬ再会では動転し過ぎて青峰くんの言葉も表情もしっかり確認出来なかった。
ビックリしてたのだけは分かったからもしかしたら覚えててくれてるかもって思ってたけど、忘れられていない事がちゃんと分かってホッとした。
「青峰さんとは仲良かったの?」
「え!?」
「同じクラスだったとか?」
「い、いや、全然…クラスは違う…」
「そうなんだ?」
「んー、うん」
「同じクラスでも無いのに青峰さんと仲良くなれるなんて、苗字さん凄いね」
「あー…そんな仲いいとかじゃなくて」
何故か桜井くんから羨望の眼差しを受けた。
仲良かったとかそういうレベルじゃない。
私が勝手に話し掛けて勝手に押し掛けてただけなのだから。
階段での再会以来青峰くんには会ってないけど、今の私に彼に会いに行く勇気は無かった。
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