「好きな女って私でしょ?私!」
「うっるせーよ!」
『名前ちゃんの事はね、大輝が1年生の時から聞いてたのよ』
『すげー好きな女居るから、俺そいつと結婚するから』
お母さんから聞いた、大輝のこの言葉が嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
だって…
大輝が元の世界に戻ってからもずっと私を想っててくれてたっていう証拠。
それも2年も、ずっと。
本人はまさか私に知られるとは思ってなかったと思うけど、私は聞けて良かったって思ってる。
というわけで、このニヤニヤを止める事なんて暫く出来そうにない。
「むふ、むふふふ」
「…キモ」
「あれ、またそんな事言って」
「あんまうるせーと口塞ぐぞコラ」
「むふふ」
「…」
ちょっとご機嫌ななめな大輝の手をぎゅっと強く握って下から覗き込めば、思いっきり目を逸らされた。
手は離さない辺り、単純に照れているんだと思う。
ホクホクとした気持ちで、家への道を大輝と歩いた。
「ただいまー…あれ」
「あ?どーした」
「奏が居ない」
「どっか出掛けたんじゃねーの?」
「え?そんなの聞いてないけど。…連絡もないし」
大輝の家から私と奏の家へ帰って来たわけだけど、そこに居るはずの奏の姿は無かった。
リビングに入ると目に入ったのは置き手紙。
電話かメールしてくれればいいのに、と思いながらそれを見る。
そこには…
名前と青峰っちへ
私はテツのお家にラブラブしに行くから、あんたたちもお幸せに〜
今日じゃない日にいつか帰ります
奏
「「…」」
2人で手紙を見て固まった。
い、いつかって…どんだけ泊まる気なの!
て事は、大輝と2人きりって事か。
ていうか、何この微妙な空気!
何故か急に黙り込んだ大輝に、私もなんとなく口を開きにくい感じになる。
「…」
「…」
「…なんで無言?」
「…別に」
「急に静かにならないでよ」
「別になってねーよ」
「なってるし」
「なってねーっつの」
空港では感動の再会に浸る間もなく、人目も憚らずいきなりキスしたいとか言って来たくせに。
がっついて来たくせに。
いきなりご両親に同棲宣言なんかしちゃったくせに。
この状況はなんだ。
あの大輝がチラチラとこっちを見ながらなんとなくもじもじしてるだなんて…気のせいだと思いたい。
私だって実はちょっと緊張してる。
だって、会うのは本当に久しぶりだし。
誕生日に会いに行った時より更に逞しくなって帰って来た大輝にドキドキしてるし。
名前呼ばれただけでちょっと顔にやけちゃいそうだし。
手繋いで歩くのだって妙にそわそわしたし。
大輝も私と同じって事なんだろうか。
チラリと隣の大輝を見遣ると目が合った。
だけど何か話す様子はない。
変にドキドキしてしまって焦る。
私は不自然にならない程度にそっと視線をずらした。
多分、大輝も。
更に続いた沈黙の後、2人の声が重なった。
「ねえ」「なあ」
「「…」」
「何?」「なんだよ」
「「…」」
「大輝」「名前」
「「…」」
もう一度顔を上げれば、何故かジト目の大輝と目が合った。
そしてそのまま何も言わずに私の手を引いて歩き出し、リビングのソファに腰を下ろす。
私はと言えば、大輝の足の間に納まって姿勢良く座っている。
大輝も大輝で特に後ろから圧し掛かって来たりとかしないものだから、余計に微妙な空気になった。
更にその状態のまま背中ごしに話し掛けられる始末だ。
「なんなの、お前」
「え、大輝こそなんなの」
「無口なお前とかキモいんだよ」
「そっちだって、引っついて来ない大輝とかキモイし」
「はぁ?」
「何」
「…」
「…」
「…」
「…もう!ホントなんなッ!!は!?」
突然の後ろからのタックルにソファの端からお尻が落ちそうになったけど、ぐいっと引き寄せられてそれは免れた。
それよりも、だ。
さっきまでは一体なんだったのか、大輝はぎゅうぎゅうと私を抱き締めながら髪に顔を埋めて来る。
だけどそれは全然嫌なんかじゃなくて、私は多分早くこうして欲しいって思ってたのかもしれない。
「名前」
「な、何」
「名前…」
「…聞こえてるよ」
「名前」
「…大輝」
名前を呼べば、私を抱き締める腕に更に力が込められた。
鎖骨の辺りがきゅっとなって、胸が苦しくなった。
「ふはは」
「っくく」
「あははは!」
「ぶくく」
2人で体を揺らして笑い合う。
要するに、アレだ。
久しぶりに2人きりで過ごす時間が、少し恥ずかしくて少し擽ったかったのだ。
行き着いた答えがあまりにも幼稚染みていて、私たちは気が済むまで2人で笑い続けた。
勿論、体を寄せ合ったまま。
幸せを噛み締めた。
「今日はお前抱き枕にして寝るだけでいーわ」
「…熱でもあるんデスカ」
「あ?お前俺を何だと思ってんだよコラ」
「変態、年中発情期」
「…お前な」
「嘘嘘、実は真面目だって私知ってるし」
「はぁ?真面目だあ?」
「あれ、違うの?」
「お前、襲われてーのかよ」
「だいたい襲われるけどね」
「…もう寝んぞ」
「はいはい」
「ったく…俺がどんだけ我慢してると…」
「ええ?」
「んでもねーよ!バーカ!」
「バカ!?」
「もう黙って寝ろよ!」
「何それ!なんか酷い!」
「酷くねーだろ!寝ろっつってるだけじゃねーか!」
「せっかく2人きりなのになんなのこの人!」
「はぁ!?お前が勝手に喧嘩売って来てんだろーが!」
「あーそうですか!寝よ寝よ!」
「おう!だからさっきから寝るっつってんだろ!」
「む」
「…はぁ」
「何その溜息」
「よく聞けよコラ」
「何…」
「証明してやるっつってんの!俺はお前が横に居りゃそれだけだっていーんだっつー事をよ!」
「…!!!」
「な、何黙ってんだよ」
「…」
「おい」
「…ッ」
「ぐえッ!!いってーよバカ!苦しいっつの!」
「好き!大好き!超好き!愛してる!!」
「なっ!」
「大輝愛してる!!おやすみ!」
「…自信無くなって来た」
END
unstoppable番外編
いかがでしたでしょうか?
青峰くんが帰国して実家で同棲宣言をした当日、その後の2人のお話でした。
沢山の20万打のお祝いメッセージ、
ありがとうございました!!
管理人 泪
20140310