10万打リク | ナノ

小さな頃から



「青峰くん」
「あ?おー、名前か…その呼び方止めろっつったろ」
「ご、ごめん…」
「…。で。なんか用か?」
「おばさんが、お弁当お願いって」
「やべ、忘れてたわ。わり」
「うん。じゃあね」
「おい!昼、一緒に食おーぜ」
「…いい。友達と食べるから」
「あ、おい!名前!」
青峰くんの制止を振り切ってその場を後にした。
教室内の女の子たちの視線が痛かった。
きっとまたこんな風に言われてるはずだ。
『釣り合わない』
『ただの幼馴染ってだけで』
『あんな地味な子が』
確かに私はたまたま青峰くんの隣の家の子っていうだけのただの幼馴染。
小さい頃からずっと一緒で、今まで特に気にする事も無かったけど。
元々明るくて元気いっぱいな青峰くんは、中学に入ってからもどんどん人気者になって…
バスケ部で更に有名になって…
高校生になった今では、校内で彼を知らない人はもう居ないくらいだ。
中学の頃とは雰囲気がだいぶ変わってしまったけど、女の子からはそこがまたカッコイイのだと人気だ。
何の取り柄もない私なんかが隣に居ていい人じゃなくなってしまった。
だけど青峰くんは私に今まで通り接して来る。
中学入学と同時に呼び始めた『青峰くん』っていう呼び方も気に入らないらしく、事ある毎に止めろって言われる。
でも『大ちゃん』だなんて私もう呼べない。


帰り道、友達と別れた所で後ろから声が掛かった。
「名前」
青峰くんだった。
早足で私の所まで来て腕を掴んだ。
「!あ、青峰くん」
「んだよ」
「…手」
「あ?いてーの?」
「そ、そうじゃなくて」
痛いとかじゃない。
思わず周りに桐皇の生徒が居ないか確認してしまった。
女の子に見られると面倒だ。
だけどそんな私を気にする事無く、腕を掴んでいた青峰くんの手は私の手を握り締めていた。
体が強張る。
「…青峰くん」
「あ?まだ文句あんのかよ」
「誰かに見られたら…」
「なんだよ、別にいーだろ」
「青峰くんだって困るでしょ?」
「…それってお前は困ってるって事かよ。つうか名前、それマジで止めろ」
「…」
不機嫌丸出しの青峰くんにもう一度手を強く握られ、歩くスピードを速められた。
辿り着いたのは青峰くんの家。
すぐ隣の私の家には帰して貰えなかった。
足の踏み場もない部屋に通されて座らされたのはベッドの上だ。
私の隣に座ってすぐゴロンと仰向けになった青峰くんは、面倒臭そうな声で言う。
「お前、なんで周りばっか気にしてんだよ」
「!」
「それとも俺の事が嫌ってか?」
「っち、違うよ!」
焦って思わず大きな声が出てしまった。
そんな事を言われたのは初めてだった。
しかも…私が青峰くんの事を嫌なはずなんてない。
嫌いなら、青峰くんを追い掛けて桐皇に入学したりなんかしない。
妙な沈黙の後、ベッドの軋む音と共に大きな体に包み込まれた。
ドキリと心臓が跳ねる。
「あ、青峰く」
「そうじゃねーだろ」
「!」
耳元で低い声が響いて体を揺らすと、私を抱き締める青峰くんの腕に力が入る。
そのままの状態で青峰くんは話し出した。
「…今日」
「?」
「今吉サンにお前の事聞かれた」
「え?」
「名前は男居んのかとか…好きなヤツ居んのかとか」
「!い、今吉先輩がなんで」
「分かんねーのかよ鈍感」
「なっ」
「…お前の事狙ってんだよ」
「!そんなの…分かんないよ」
「はぁ…なら俺の考えてる事も分かってねーんだろーな」
「え?」
溜息をついた青峰くんの顔色を窺おうと振り向く。
そこには、こちらが戸惑う程に酷く哀しげな眼をした青峰くんが居た。
「大、ちゃん…」
「周りのどうでもいい女なんか関係ねーよ」
「っ!」
「青峰くんとか違和感しかねーから止めろ」
「だって…」
「だってじゃねーよ、俺の名前は?」
「…大ちゃん」
「おー。ずっとそうやって呼べ」
大ちゃんが笑った。
久しぶりに笑顔を見た気がする。
嬉しくなって自分の頬も上がる。
大ちゃんの目が見開かれた。
と同時に私に回された腕に力が込められて、どんどん顔が近付いて来る。
びっくりして下を向こうとしたら、ゴツンとおデコとおデコがぶつかって…至近距離で視線が絡む。
「お前は…昔から俺のもんだって決まってんだよ、名前」
「だ、大ちゃんっ」
「昔みたいに、俺の横で笑ってりゃいーんだよ。んの、バァカ」
そう言って更に顔を寄せる大ちゃんを今度は避けようとは思わなくて…
そっと目を閉じた。

私もずっと隣で大ちゃんの笑顔を見ていたい。
小さな頃からずっと
貴方だけを見て来たのだから。


END











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ひめ様
お楽しみいただけましたでしょうか?
内気な幼馴染、切甘との事で、こんな感じになりました。
あまり切ない感じが出せなくて、力不足ですいません><
リクありがとうございました!

20140124



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