10万打リク | ナノ

青に堕ちる



「名前ちゃん。来てるよ、立ち読みくん」
「あ、ホントだ」
「ああ、もうただの立ち読みくんじゃ無いんだっけ」
「先輩。わざわざもう言わないで下さい」
バイトが終わる10分くらい前になると、青峰くんはやって来る。
私が上がるまでいつもの場所で立ち読みして待っているのだ。
時計と私をチラチラと見ながら待っているその姿はちょっと可愛い。
「ぶふっ。名前ちゃん、もう上がりなよ」
「え」
「なんか俺見てらんない。飼い主の帰りを待ってるペットみたい」
「す、すいません」
恥ずかしい。
先輩の言葉に甘えて少し早く上がらせて貰う事にした。

外に出ると、『別に待ってねーけど』みたいな顔で青峰くんが立っていた。
クスリと笑いを漏らすと不機嫌な声が上がる。
「なんだよ」
「何でもないよ!お待たせ、帰ろ」
「おー」
当たり前の様に青峰くんの手が伸びて来て私の手を握る。
それだけで頬が上がってしまう私って、いったいどれだけ青峰くんの事好きになっちゃってるんだろう。
最近は私ばかりがどんどんのめり込んでしまっている気がして、ちょっと不安でちょっと悔しい。
いつものように他愛もない話をしながら家の前まで送って貰うと、『じゃーな』と言って青峰くんはすぐに背を向けて帰ろうとした。
そんな青峰くんの制服の裾を無意識に掴んで、引き留めてしまった。
驚いた顔の青峰くんが振り返る。
一番驚いてるのは私だ。
何やってるんだろう。
掴んだ裾を慌てて離すと、今度は青峰くんの大きな手が私の手を掴んだ。
「さっきのすげー萌える」
「な!何言ってるの!」
「もうちょい一緒に居よーぜ」
「!」
こっそり心の中で思っていた事を言われて嬉しくなった私は単純だ。
親が帰って来るまでと決めて部屋に通した。
「あー、すっげー名前の匂いする」
「…私の部屋だもん。何か飲み物持って来る」
「あ?いらね。ちょっとこっち」
そう言いながら青峰くんはベッドに腰掛けて私に手招きする。
素直に従って近付けば、立ったままの私を正面から抱き締めて来た。
青峰くんの顔がちょうど私の胸の辺りに埋められて恥ずかしい。
埋まるほど包容力なんて無いけど。
なんて雑誌の表紙を飾るグラビアアイドルにちょっとしたヤキモチを焼いてみたり。
そのまま青峰くんは話し出した。
「明日試合見に来んだろ?」
「うん」
「若松のヤロウと喋んなよ」
「…喋るなって言うのは難しいでしょ」
「じゃあ近寄るな」
「それじゃ青峰くんの所行けない」
「…んじゃ試合ふける」
「そんな事したら私もう会わないよ」
「…」
若松くんに異常な程警戒心を向けている青峰くんは、試合がある度にこんな事を言って来る。
拗ねているのか黙って私を抱き締めたまま動かない青峰くん。
両肩を押さえて体を離そうとすると、もぞっと顔が動いた。
「っ!」
鎖骨の辺りにピリッとした痛みを感じて体が跳ねる。
更にそこをペロリと舐められる感触。
「あ、青峰くん!?」
「あ?」
「なに!?」
「何って、若松除け」
「やだ!見えちゃうじゃん!」
「見える様にしてんだろ」
ジタバタともがくも離してくれるはずもなく、更に強い力で抱き竦められた。
足元がぐらついて青峰くんに体重を掛けてしまい、その勢いのまま2人ベッドに倒れ込む。
私が青峰くんに圧し掛かって押し倒している形になって更に慌てた。
「青峰くん!」
「ん」
「!んって、何!」
「名前も、ココにやれ」
「!!」
自分の首を突き出して見せる青峰くん。
私にしたのと同じ事をしろって事!?
無理無理無理!!
驚いて目を見開くと、青峰くんの眉間に皺が寄った。
怖い怖い。
「で、出来ない」
「なんでだよ」
「恥ずかしくて無理!」
「…」
「ちょ、拗ねない!!」
ジト目を向けられた。
そんな目で見られても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
視線を逸らすと、大きな手に両頬を包まれた。
「しょうがねーな」
「なに、ん!!」
『何が?』と言葉を言い終える前に唇を塞がれた。
「これで我慢しといてやる」
ニッと笑った青峰くんに怒る気なんて起きず、簡単に受け入れてしまう私はもう重症だ。
既に青峰くんでいっぱいだと思っていた私の脳内は、際限なくどんどん青く染まる。
私が彼を振り回せる日はいつか来るのだろうか。


END











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双様
お楽しみいただけましたでしょうか?
青に染まるの青峰で甘め、番外編という事で、完結後初の番外編となりました^^
あまり甘くはならなかったかもしれませんが、お気に召していただければ幸いです。
リクありがとうございました!

20140129



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