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スキのベクトル



毎日毎日、飽きもせず私に告白をしてくる男が居る。
それは最早日課の様になっていて、私にとっては特別でも何でもない事になっていた。
「名前っち、おはよーッス!今日も可愛いッスね!」
「…おはよう」
「っへへ!そんな釣れない所もいいッス!」
「ソウデスカ」
「大好きッス!!」
「…」
黄瀬くんにとって『大好き』っていう言葉はどういう意味を持ってるんだろう。
こうも簡単にポンポン言われると申し訳ないけど信憑性が無いっていうか、誰にでも言っているんだろうって思ってしまう。
そんな彼が、私には分からない。


中学も違うクラスも違う黄瀬くんとは面識なんて無かった。
とはいえ大多数の女子から人気の彼は何処に居ても目立つ。
私も勿論彼の存在は知ってた。
まさかこんな事になるとは思ってなかったけれど。
そんな有名人の彼と初めて話したのはある日の昼休み。
入学して1ヶ月も経っていない頃だったと思う。
『ねえ君!』
『…?私?』
『そう!世界史の教科書、持ってないッスか!』
『世界史…うん、あるよ?』
『貸して下さいッス!!』
『う、うん』
なんで私なのかと思ったけれど、考えてみれば納得。
私の席は廊下側の一番後ろ。
あまり目立つ事無く簡単に声を掛けられる場所だ。
かなり焦っている様子の彼に教科書を差し出す。
それをしっかり両手で受け取って、彼は笑った。
『ありがとッス!』
凄く綺麗な笑顔だった。

その日を境に、黄瀬くんは度々私の所に来るようになった。
特に用があるわけじゃない。
女の子たちの目を掻い潜って教室に滑り込み、ドアと私の机の隙間に座り込んで隠れる様にして私に話し掛けて来た。
私が矢面に立たされない様に気を使っているらしい。
『名前っちの好きな物は?』
『昨日は何してたんスか?』
『俺名前っち大好きッス』
『名前っちにバスケ部見に来て欲しいッス』
『名前っちが来てくれたらもっと強くなれそうッス』
『今日の名前っちも大好きッスよ』
彼の口から出て来る言葉は、ファンが聞いたら卒倒しそうなくらいの言葉ばかり。
なんでそれが私に向けられるのか、そんなの私が一番知りたいくらいだ。

『好き』『大好き』
特別でも何でもない事になっていった彼からの告白は今、私を苦しめている。
何故かって。
こんなの認めたくないけれど多分、私は黄瀬くんが好きだ。
いつからかなんて分からない。
毎日毎日、彼の笑顔を見て行くうちにそうなってた。
黄瀬くんは私に迷う事無く『好き』だなんで言う。
本心か冗談か分からないそれを聞き続けるのは、苦しくて仕方なかった。
その苦しみもそろそろ限界を感じていたある日。
私は初めて、彼を拒絶した。
「名前っち、大好きッスよ」
「…」
「もうホント好きッス!」
「…」
「なんか今日元気ないッスね?俺の大好きな名前っちの笑顔見れな」
「止めて」
「え?」
「好き好き好き好き煩い」
「名前っち?」
「軽々しくそんな事口にする人って、信じられない」
「っ!」
それ以来、彼の告白はパタリと止んだ。
あの時の悲壮な顔が目に焼き付いて離れない。


あれから1ヶ月くらい経った。
毎日毎日痛いくらいの視線を感じながらも、彼が話し掛けて来る事は無かった。
この期間で私は、黄瀬くんの事が『大好き』で仕方なくなってしまっていた。
自分から話し掛けるなんてもう出来っこないし、自業自得だ。
いつものようにトボトボと帰り道を歩んでいると、校門に差し掛かる前に声が掛かった。
「っ名前っち!!」
「!」
懐かしい響きにドキリとする。
振り向く間もなく、後ろから大きな体に包み込まれた。
というかタックルされたかのような衝撃だ。
「名前っち!」
「き、黄瀬くんっ」
「やっぱ無理ッス!大好きッス!名前っちが…っ大好きッス!」
「っ」
ぎゅうぎゅうと私を抱き締めながら、黄瀬くんは『大好き』だと言った。
それは今まで聞き慣れた軽い『大好き』なんかじゃなくて、苦しげで切なげで胸がギュっとなるくらいの叫び。
肩を掴んで振り向かされた先に見えたのは、ユラユラと揺れる金色の瞳。
「大好き…なんス」
その切ない響きに誘われる様に、私もずっと言えなかった言葉を口にした。
「私も、黄瀬くんが好きだよ」


後に知った事だけど…
黄瀬くんが私の存在を知ったのは入学式だったらしい。
あの日靴箱の前でネクタイを拾った私は、届ける時間も無かったので申し訳ないと思いながら、書かれた名前を見て持ち主の靴箱に突っ込んだ。
その持ち主の名前は黄瀬涼太。
顔も名前も知らない私にとって、それはただ普通の行動だったと思う。
だけどその場に居合わせたらしい黄瀬くんは『ネクタイ、盗まれなかった』ってポカンとしてたらしい。
過激なファンの女の子と一緒にしないで貰いたいと思いつつ、そんな普通の行動が彼の目に留まったのかと不思議な気持ちだ。
『普通な名前っちが大好きなんス!』
眩しい笑顔でそんな事言われてもどう反応したらいいか困るけど。
黄瀬くんの『大好き』は私にとって、心地いい『大好き』になった事は言うまでも無い。


END











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神流様
お楽しみいただけましたでしょうか?
黄瀬くんで、同級生か年下ヒロインを口説くという事だったのですが…
口説くというよりは熱烈告白になってしまい(汗)
ちょっと変わった感じのお話にしてみたいと思い書いたのですが、趣向が変わってしまったような><
全く見当違いなお話になってしまっていたらすみません><
お気に召していただければ幸いです。
リクありがとうございました!

20140129




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