10万打リク | ナノ

ウブ



バスケ部の部室のちょっと手前で立ち尽くしている私は、さぞかし不審人物に見えるだろう。
人が通らないだけマシだけれど。
そわそわウロウロしていると、突然肩をポンと叩かれた。
「!!」
「なーにしてるんスか、名前っち」
「…はぁあああ、黄瀬くんかぁ」
「あれ、なんかその言い方酷くないッスか?」
お目当ての人物と違ってホッとした様な残念だった様な。
黄瀬くんの手には沢山の可愛くラッピングされた包みが抱えられていた。
勿論それは女の子たちからの愛情たっぷりのチョコレート。
いったい何個貰ったんだろう。
私の視線に気付いた黄瀬くんはニヤリと笑って言った。
「青峰っちならもう部室にいるんじゃないッスかね」
「うあぁああああ!!!シーッ!」
「ちょ、名前っちの声のが煩いッス」
「黄瀬くんのせいだからっ」
「んだよ、うるせーな」
想い人の名前を出されて慌てていると、違う声が加わった。
部室の扉の前には…
「あ、青峰くん!」
「あ?」
「青峰っち〜!名前っちがっ、もががっ」
「なぁああんでも無いですっ!ね、黄瀬くん!」
「むぐぐっ」
「…うるせーからどっか行け」
「!」
余計な事を口走りそうな黄瀬くんを抑え込むと、棘のある声音で言われた。
うるせーからどっか行けって…
凄いショック、立ち直れない。
ズボンに両手を突っ込んで背を向けて体育館に向かう青峰くんを、黄瀬くんの口を抑えたまま茫然と見つめる。
「…名前っち、何してんスかもう」
「…言わないで。落ち込んでるんだから」
「はぁ。俺もう部活行くッスよ〜」
「…いってらっしゃい」
「名前っち!頑張るんスよ!」
「ん」
黄瀬くんとは同じクラスだ。
私が青峰くんの事を好きなのも知ってる。
だって、私が青峰くんに落ちた瞬間を目撃されてるから。
青峰くんはクラスも違うし、きっと私の事なんて知らない。
さっきだって『お前誰だよ』って顔してた、多分。
黄瀬くんは何かと教えてくれるからありがたいんだけど、今日はタイミング悪かったな。


あれから私は1人教室でバスケ部が終わるのを待っていた。
外はもう暗い。
終わったら黄瀬くんがメールで知らせてくれるって言ってたけど、まだ来ない。
机の上に置いた紙袋を見遣る。
「…渡せるのかな」
不安がポロリと零れる。
今朝頑張って早起きして作ったクッキー。
ベタだけどバスケットボールとかシューズの形とか、チョコ掛けでデコったりとか結構色々頑張った。
味には自信があるのでそこは心配ないのだけれど、問題は私だ。
「はぁああああ」
盛大な溜息をついて机に突っ伏す。
更にゴロンゴロンした所で、有り得ない声が響いた。
「お前、何やってんの?」
「!!」
ガタンと音を立てて飛び起きると、教室の入り口にポカンとしている青峰くんが立っていた。
どういう事だ!?
「あ、青峰くんっ」
「黄瀬が行けってうるせーから」
「黄瀬くん!?」
「わけ分かんねー」
首を傾げながら頭を掻く青峰くんになんだか申し訳なくなって来た。
黄瀬くんも思い切った事してくれたものだ。
後で抗議しに行かなきゃ!
「そ、そうだよね!だいたい青峰くん私の事も知らないし」
「あ?何言ってんだ?苗字だろ?」
「へ」
驚いた。
青峰くんが私の名前知ってた。
「前に俺にぶつかって来て派手に吹っ飛んだじゃねーか」
「!!」
覚えてた。
私が醜態晒した上に、恋までしてしまったあの時の事。
青峰くんの言う通り。

あの日余所見して廊下を走ってた私は前を歩いていた青峰くんに気付かず、大きな背中に思いっ切りぶつかって思いっ切り後ろに吹っ飛んだ。
『お、おい…大丈夫か?』
『〜っ、い、いた…』
『立てるかよ』
『いいいい痛いです』
『ほら』
『ご、ごめっ…いったぁ!』
『うおっ』
『っ!?』
青峰くんは手を引いて立たせようとしてくれたのだけど、あまりの痛さに私は彼に向かって倒れ込んでしまったのだ。
しっかりと抱き留めてくれた青峰くんにドキリと心臓が跳ねる。
そして顔を上げた先にはどアップの青峰くんの顔。
驚いて体を退いてまたよろけた私を、青峰くんは支えてくれた。
『っありがとう』
『おー。気を付けろよ?』
『うん』
『ん。じゃーな』

私の初恋。
ニッと笑ったあの時の青峰くんの顔が忘れられない。
恥ずかしかったけど、私を覚えててくれた事が嬉しくて頬が上がる。
すっかり今日の目的を忘れて心の中で舞い上がっていると、青峰くんがゆっくり教室に入って来た。
「なあ」
「!は、はいっ」
「それ、俺にくれねーの?」
「!?」
それ、と青峰くんが指差したのは紙袋。
「こ、これは!!あのっ」
「……なんだ、お前も黄瀬かよ」
「っ違うよ!!私っ、私が好きなのは青峰くんだもんっ!!」
「!」
「うああああっ」
「なら、くれ」
「迷惑だし、こんなの絶対迷惑だしっ」
「迷惑じゃねーよ、くれって言ってんの」
「なっ、なんで」
「はぁ?くれって言ってんだから察しろよ」
「っ!!」
そう言って青峰くんは無造作に紙袋を掴んで教室の扉に向かう。
そして私に背を向けたままボソっと言った。
「さんきゅーな」
「っ!うんっ!!」
顔は見えなかったけれど、耳が真っ赤だったのは見間違いじゃないって思いたい。


END











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友美様
お楽しみいただけましたでしょうか?
青峰でバレンタインに告白という事で、こんな感じになりました。
予定よりも初々しい感じになってしまいました^^
お気に召していただければ幸いです。
リクありがとうございました!

20140127



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