私を見つめたまま固まっているグリムジョー。
もそもそと動いて、姫抱きからグリムジョーに跨がるように座り直した。
正面からじっと見つめているとゆるゆると手が背に回り、私はゆっくりと腕の中に収められた。
「…お前を抱いてると、安心する」
「グリムジョー」
「こういう事か、あれは」
「ふっ、そうだね」
「…」
そのままそっと抱き締めながら、グリムジョーは優しく私の腕や首筋を撫でた。
こんな風に触れられた事は無いからなんだか凄くこそばゆい。
「何?」
「いてえか…」
彼が言っているのは体中あちこちに刻まれた咬み痕の事。
強く深く刻まれたそれは、この数日で消える物ではない。
それは私にとって嬉しい事だった。
むしろ、消えてしまう方が辛い。
私は首を振った。
「痛くないよ」
「バカか。痛くないわけねえだろ」
「グリムジョーがつけた痕だもん」
「っ!な、何言ってんだ、お前はよ」
グリムジョーはビクリと体を揺らして、背や腕を擦りながらより一層強く抱き締めてきた。
「私、グリムジョーが好き」
「!…俺は、お前らから見たら化け物だ。そう言ったろ」
「関係ないよ。私はグリムジョーが好き、ただそれだけ。…グリムジョーは?」
「俺、は…俺は…」
「ん?」
言い澱んで目を逸らした。
心なしかその頬はうっすらと紅い。
ああ、可愛い。
そんな表情、反則だ。
「ッチ、名前!!」
「ん?え!っん!?」
グリムジョーからの言葉は無く、代わりにその思いをぶつけるかのようなキスが降ってきた。
私はそれをなんの迷いもなく受け入れる。
だって、嬉しい。
抱き締めてくれた事が、安心するって言ってくれた事が、照れてくれた事が、何もかもが。
この前の荒々しいそれとは違う優しいキス。
私の唇をそっと食むように触れた後、ちゅっちゅっと音を立てながら吸い付くように塞ぐ。
グリムジョーの猫みたいなザラザラとした舌が唇を割り歯列をなぞって、ゆっくりと口内に侵入してきた。
「は、っん」
「っ、ん…名前っ」
キスの合間に囁かれる自分の名前。
ゾクゾクと背を這い上がる様な感覚と、どんどん足りなくなる酸素に意識が遠退き始めた頃、そっとキスが終わる。
そして、至近距離で空色の瞳をしっかりと私に向け、唇を触れさせながらグリムジョーは言った。
「お前が好きだ、名前」
「っグリムジョー!!」
(再び重なり合う唇)
(ああ…心の壁は、取り払われた)
prev / next