「っの!バカヤロウ!!」
「っ!?」
突然の浮遊感と共に懐かしい声と匂いに包まれた。
痛い程に抱えられて体がギシギシと音を立てる。
私はそんなのお構いなしに迷わず力いっぱいしがみ付いた。
目の前には固い胸板、視界をゆらゆらと掠める空色の髪。
「グリムジョー」
背中に回した手に更に力を込めて顔を埋めた。
降り立った先は人気の無い地域にある廃工場の屋上。
地に足を着けたというのに、お尻を支えて抱き上げたままの私を地面に下ろそうとはしない。
「グリムジョー」
「…」
問い掛けても無言だ。
さっきの私の行動を怒っているのだろうか。
「グリムジョ…」
「悪い」
「え…」
突然謝って来たグリムジョーに私は目を見開く。
いったい何に謝っているのか。
グリムジョーは抱えたままの状態で私の足首に触れた。
「っ!痛っ!」
「…悪い。助け損ねた」
「どういう意味?」
今度は私を姫抱きに抱え直し、地面に胡坐をかいて座った。
私はさっきの言葉の意味を測りかねている。
「俺はさっき…お前を助けるのを躊躇した」
「え?」
「…このままお前を見殺しにして、俺が手を掛ければ…」
「!!」
「だから、悪い…出遅れて足だけ車に接触させちまった」
「グリムジョー」
「…いてえか」
「グリムジョー。っ私!足なんかより、心、痛い」
「…心?」
グリムジョーは私と同じ事を考えてたって思っていいんだよね?
見殺しにされる所だったというのに不謹慎にも私は嬉しかった。
傍から見れば残虐なそれも、私にとっては幸せな事以外何物でも無かったのだから。
グリムジョーも、その一瞬でもこれからも私と一緒に居たいと思ってくれたと考えていいのだろうか。
「私、殺されても良かった」
「は!?」
「確率は低くても轢かれて命を落とせば、またいつかグリムジョーに会えるかもって思って…」
「っお前!」
少し顔を上げれば、至近距離に酷く端正なグリムジョーの顔。
その瞳は戸惑うようにゆらゆらと揺れている。
「…名前」
「グリムジョー」
「ここが苦しくて気持ちわりぃ…これ、何だ」
グリムジョーが指しているのは、彼の『心臓』。
そんな彼をじっと見つめていると、固くて冷たい大きな手がそっと私の頬に触れた。
「名前…」
「私も同じ」
「お前も?」
「うん。苦しくて、ギュってなって、モヤモヤして、落ち着かない…」
「っだから!なんなんだよそれは!」
急くように身を乗り出すグリムジョーが可愛く思えてつい微笑む。
「『好き』って事だよ、グリムジョー」
「は?」
「私はグリムジョーが好き。グリムジョーは私が好き」
瞳が飛び出すんじゃないかというくらい、グリムジョーの目が見開かれた。
そして、ポツリと呟く。
「好、き…」
(伝えたかった思い)
(知りたかった心)
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