空と空色と/グリムジョー | ナノ

17 痕の疼き



「名前!?」
「あ、浅野!昨日はごめん」
「お、お前…」
「ごめん、何も聞かないで。お願い」
「あ…」
心配してくれる浅野をすり抜けて自分の席に着く。
私はなんて最低な人間なんだろう。
昨日はあの爆発の後突然姿を消した私を探し回ってくれたという浅野。
やっと涙が落ち着いてから電話をすれば、物凄い勢いで怒られた。
何があったかは聞かないで欲しいなんて、心配してくれた人に対してあまりにも失礼な事を言った私を、浅野は許してくれた。
でも気にならないわけがない。
全身は見えなくても、見える部分にも残された咬み痕が何があったのかを物語ってる。
そして浅野はきっと、彼の存在を知ってる。
だからこそ。
『水色の頭の、不良男か…』
浅野は電話でポツリとそう言った。
自分の席で頭を抱えて座り込んでいる浅野を見て、グリムジョーがきっと彼にとって何らかの脅威なのだという事が伺える。
だけど私にはもうこの気持ちを止められる術は無かった。
今も、どうやったら会えるのかと考えてる。
グリムジョーの事を考える度に傷痕が疼いた。
この傷のどれかが、一生消えない傷になればいいとさえ思う。

仕事を終えて家に帰っても、グリムジョーが来る気配は無かった。
窓から暗くなった空を見上げても、空は割れない。
そんな日が何日も続いた。
朝も昼も夜も、時間さえあれば空を見つめていた。
正直寝不足だった。
注意力散漫になっていた私は、赤信号に気付かずに歩き続けた。
車のクラクションが響いた瞬間、やってしまったと気付く。
ああ、でもこれでもし死んだら…
ふとグリムジョーの言葉が頭を過る。
『人間だった俺は、もういつだったか分からねえくらい前に死んでる』
立ち止まったまま動けなくなった。
このまま命を失えばもしかしたら、そんな安易な考えが浮かんだのだ。
そしてゆっくりと目を閉じる。
「グリムジョー」






(最期に思い浮かべる顔も声も)
(彼だった)



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