「ちょっと!グリムジョー!?」
「…」
「何処行くのっ!ちょっと気持ち悪…」
「…」
黙ったまま私を担いでどんどん移動するグリムジョー。
浮遊感が気持ち悪い。
タッと地面に足が着く音がしてやっと止まったかと安心したのも束の間、乱暴に地面に放り投げられた。
「痛っ、なに、…!?」
起き上がる間もなくずっしりと重い体が私に跨る。
両手首はそれぞれがっちりと押さえつけられ微動だに出来ない。
恐る恐る表情を伺って身震いがした。
今にも獲物を射殺しそうな目、それでいて何かに戸惑っているように揺れる水色の瞳。
「…」
「グ、グリム、ジョー?」
「…ッチ」
「!?」
舌打ちと共にグリムジョーの顔が一気に近付き、今までの比にならない程の力で首に咬み付かれた。
「っや!痛いっ!!」
声を上げても全く力は緩まず、それどころかそれは一箇所に止まらなかった。
首筋を血液がツウッと流れる感触をやけにリアルに感じる。
忘れ掛けてた。
彼は人間じゃない。
私はこのまま喰い殺されてしまうんだろうか。
でもなんでだろう。
痛みはあるけど、不思議と恐怖はない。
ぼうっと目の前の鮮やかな水色の髪を見つめながら呟いた。
「…グリムジョー」
「っ!?」
一瞬彼の動きが止まる。
ゆっくりと首から離れて視界に入った彼の唇は、私の血液で紅く染まっていた。
「グリムジョー」
「っ黙れ!!」
眉間に皺を寄せて大きな声でそう叫んで直ぐ、私は唇を塞がれた。
喰らい付くと言った方が正しいのかもしれない。
顔を傾け、深く深く重ねてくるその行為も不思議と嫌では無かった。
血の味が口の中に広がる。
「ん、んぅ」
やっと唇は解放されたものの、酸素が足りずに朦朧とする意識の中、今度は体中に咬み付かれた。
首、肩、腕、お腹、腿、脚…耳や指先までも。
耳や指先に感じたのは触れる感触だけだったと思うのは私の欲目か。
その最中、グリムジョーの口から正体が告げられる。
痛みと妙な快感に耐えながらも、私は一言一句逃すまいと意識を繋いだ。
(去り際に見た彼は)
(苦痛に顔を歪める1人の『人間』)
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