「そろそろ下ろしてくださ「無理」…」
「居心地悪いん「うるせ」…」
「すいません、下ろしていただけませ「却下」…」
何?なんなの?
さっきの居心地の悪すぎる体勢から微動だに出来ないんですけど。
何言っても却下却下。
とんだ辱しめじゃないか。
しばらく何かを考えてるみたいだけど、とりあえず私を下ろしてからにして貰いたい。
「…お前に抱き着いてたやつ、アレなんだ?」
「は?」
「アイツだよアイツ!ひょろっとしてて、いかにも弱そうな人間の男!」
ひょろっとしてて、いかにも弱そうな、私に抱き着いてた男…
「…浅野の事か」
「浅野?名前とかどうでもいい、アイツは何してやがったのかって話だバカ」
「バカとはなんだ!浅野は職場の同僚だよ。うるさいけどなかなかいいヤツ、うるさいけどね!」
「なんで抱き着いてんだよ」
「知らないよ!てかなんで知ってんの!?あんたあの頃しばらく来なかったじゃ…!?どっかで見てたの!?!?」
「フンッ、知るか」
「あー!やっぱ見てたんだ!姿隠して覗き見とか趣味悪!!」
「は!?てめえ今なんつった!覗き見だと!?俺は窓の外から…!あ」
「窓の外!!!そうか!飛べるんだった!覗き魔!グリムジョーのバカ!!」
「…てめえ、随分な口のきき方じゃねぇか。」
グッ
「!?」
額に青筋を立てながらグリムジョーの端正な顔が近付いてきて、思わず身を引いた。
のだけど
グイッ
「え、ちょっと…」
「…コレになんの意味があんだ?あの人間の男、何がしてぇ」
胡座をかいたグリムジョーの上に座る私。
そして彼は両手で私の腰を引き寄せ、左肩に顎を乗せて考えを巡らせているようだ。
「…離れて考えようか、グリムジョーさん」
「それじゃ分かんねぇだろ、黙っとけ下僕」
「…顎乗せないで、地味に痛い。不安定だから怖い下ろして」
「………」
ダメだ、聞く耳持たず。
1人でぶつぶつ言ってるよ、自分の世界に入ってる。
なんで抱き着いたかなんて知ってどうすんの!逆にあんた今何してんのって聞きたいわ!
生憎私は鈍感じゃないから、浅野が私の事をずっと気にかけてくれてる事くらい知ってる。
自意識過剰って思われるかもしれないけど。
でもあの時は、純粋に私の事を心配してくれてるって感じだった。
霊感みたいなのがあるらしい浅野…今この状態を見たら、やっぱりグリムジョーの事が見えるんだろうか。
「おい」
「はい?」
「人間はどういう時にこうするんだ?」
…真面目な顔して聞かないで欲しい。
「分かんない。そんなの本人にしか分からないよ。嬉しかったり、幸せだったり、悲しかったり、辛かったり…その時々で違うもんでしょきっと。」
「…俺にはさっぱりだな」
「だろうね」
「んだと!また咬みつくぞコラ」
「…そんな事言ってる時点で、理解能力ゼロでしょ。やめやめ、もう下ろしてよ」
「……お前は」
「ん?」
「お前はどうなんだよ。どういう時、ああする」
驚いた。
そんな事私に聞いてくるなんて。
あー、もう。
答えるから至近距離で睨み付けるの止めて欲しい。
「私はね………安心したい時、かな」
「安心、したい時…意味分かんねぇな」
「だろうね。あーそんな怖い顔しないでよ!私だってそれが全てってわけじゃないし、よく分かってないし!とにかく、ギュッてされて心が落ち着くとか安心するとか、そういうのがいいかなって事!」
「…」
「…?」
「…」
「あのー。考えすぎてショートしました?ッいでっ!〜〜〜ッ!!」
ちょ、頭突きくらった!
酷い!痛すぎる!!
「寝る」
「…あ、そ。じゃサヨナラってコラ」
「っるせ。このまま寝る、じっとしてろ」
グリムジョーはその場に仰向けに寝転がった。
そのまま私の手を引いて…抱き枕にでもするつもりだろうか。
腰を掴んだまま既に寝る態勢だ。
というかもう寝息が聞こえる、マジか。
「はぁ。もう勝手にして。って十分してるか…ふふ」
人間とは異なる存在であろう彼が何を以て人間の行動の意味を考え、こんな真似事をしているのか、私にはサッパリだ。
けど、どう考えても人間ではない彼と寄り添って平気な顔をしてる私も、他から見れば異質なのだろう。
そして何故かちょっと「安心」してしまっている自分に気付いてしまった私は、何かが手遅れになる前に回避しなければならないと、遠くで警報が聞こえた気がして…
そんな事は分かってるって自分に言い聞かせた。
(その思いとは裏腹に)
(侵食される心)
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