空と空色と/グリムジョー | ナノ

10 日曜日の急患



あれから、
グリムジョーに出会ったあの日から5日が経った。
変わらない毎日を、いつもの調子で過ごしていたと思う。
浅野に元気ないじゃんって言われたから、飼い猫に逃げられたって言ってやった。
いいでしょ別に。
気になっていたんだと思う。
ただ、空を見上げるのが好きだったのに
理由がついた。
認めたくはないけど探しているのだ、空色を。
『じゃあな』って消えたあの日から全く音沙汰無し。
あれは夢でした、で片付けてやろうか。
存在自体無かった事にしてやろうか。
否、それはきっと無理。
咬み痕は未だ健在だ。
紫色はどす黒くなったけど。
脳裏に焼き付いたあの鮮やかな空色の髪も、射殺されそうな程の鋭い目も、ニヤリと笑った時の吊り上がる口元も、無かった事にするには印象的過ぎた。
感化され過ぎたか。
たった1日、一緒に居ただけの正体不明の猛獣に。
咬まれたついでに何か仕込まれたかな、
なーんて、特に予定もない日曜。
ボケそうなくらいぼんやりと頬杖付いて空を見上げていたら

ブゥンッ
ゴゴゴゴゴ

目の前の空間を切り裂いて、空色が現れた。
いや、雪崩れ込んで来たのだ、私の部屋に。
もう何も驚くまい。
なんて思ったのも束の間、私は震え上がる事になった。
「クッ…ソ、ハリベルのやろ…」
「ちょ!グリムジョー!?あ、あんた!」
「んだょ名前、ハァ、うっるせぇ…ぞ!ちょっと、休ませ、ろ」
ドカッ
「!?」
血だらけのグリムジョーを受け止める羽目になった。
「ひっ!痛い!!息止まる!重い!」
鉄の塊のような物の下敷きにされたと言えば分かってもらえるだろうか。
今にも押し潰されそうだ。ちょっとクラクラする。
しかし、嗅覚が私の意識を覚醒させた。
瞬く間に錆び付いた鉄の臭いが辺りに立ち込め、大変な事が起きたと理解する。
グリムジョーは全身傷だらけだった。
身体中にぶつけたような痕や、刃物で切ったような切り傷があるのだ。
口の端からも血が垂れている。
それから、傷のせいなのか息を切らして苦しそうにしている。
何があったのかは知らないけど、とりあえず傷口だけでもなんとかしなきゃ!
大きな来客の下から必死に抜け出し、とにかく止血をと家にある救急箱を持ち出した。

一通り処置が終わった頃には、上がっていた息も落ち着きを取り戻していた。
なんて頑丈なヤツ。
ホッとと一息ついて、私のベッドに横たわる久しぶりに見る空色を見つめてみる。
綺麗な顔。
傷さえなきゃ綺麗な肌。
綺麗な髪。
あ、眉間に皺寄ってる。
ふんっ、突ついてやった。
右頬には…肉食獣の歯の化石みたいなもの。
触れてみる。
凄く硬い、冷たい。
そのまま視線を身体にずらす。
気付かなかったわけじゃない。
気付かないわけがないのだ。
美しい胸筋、腹筋を辿ればそこには…ポッカリと開く孔。
こんなに近くでまじまじと見たのは初めて。
本当に綺麗に空洞になってる。
ベッドのシーツが向こう側にハッキリと見える、まさに筒抜けなのだ。
お腹の、孔の近くに手を触れてみる。
真っ暗な孔の奥深くから、酷く冷たく哀しい叫びが聴こえたような気がした。







(吸い込まれそうな程に)
(深い暗闇)



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