空と空色と/グリムジョー | ナノ

09 必要のない嘘



「浅野!おっはよ!」
「おー、おはッ」
ガタッ!!!
いつもの挨拶を交わしただけなんですけど、どうした浅野。
「何、その反応」
「い、いや、おま、そそそそそそれ!!」
浅野が指差したのはやはり。
「あー、コレ?飼い猫に咬まれたんだよ、デカイ猫にね」
皮肉である。
これくらい言っても罰は当たらないだろう。
「猫って!お前猫なんか飼ってたか!?つかよ、なんかそれってその、なんつーか、」
「コレがキスマークだとでも言いたいわけ?浅野君」
「キ、キキキキシュマッ!!!」
噛んでるし。純情か。
「お前!男居たのかよ!!い、いつから!」
「浅野、話聞いてた?だいたいね、キスマークでなんでこんな痕残るの。どう考えても動物に咬み付かれた痕でしょ、歯形だよ歯形!」
ブッ
自分で言って笑える。
まあ確かに動物に咬み付かれた、で間違ってはいないよね。
「そ、そそそそうだよな!悪い!早とちり!しっかし綺麗に歯形ついたな!穴4つ!ちょっと見せてみ…ろ…!!」
「…?今度は何?血でも垂れてきた?なら触ると汚れるよ?」
傷に触れてきた浅野の動きが止まった。
なんだと言うのか、顔色が悪くなってる。
「あ、浅野?どした?何かあった?」
「い、いや、なんも。…そ、そんなわけ、いやでも、…」
「ちょっと浅野!大丈夫?顔色悪いよ?」
「…名前、お前昨日、何かあったか?その、猫に咬まれた以外に何か、変わった事っつか、なんかさ。」
「…」
そういえば、
浅野は高校辺りから霊感みたいな物が強くなって、結構大変な思いをしたと聞いた事がある。
こんな反応を見せるという事は、やはりグリムジョーは幽霊の類いなんだろうか。
「うーん、特に何もないけど、なんで?」
嘘、ついた。
「…いや、何もないならいいんだ、ないなら。…俺の思い違いだろきっと。…こんな、まさかな」
「?」
霊感って凄い、なんて呑気に思っている私は、何処かネジが弛んでしまってるんだろうか。
昨日の有り得ないような事も半信半疑だが割と受け入れてしまってる所も、何処かおかしいのだろうか。
こんなに心配してくれる友人に、秘密を作ってしまった。
「…名前」
「ん?どした?…浅野!?」
ギュッ
「何かあったら、何でもいいからさ、俺に相談しろよ?俺たちさ、…仲間だろ?」
突然抱き締められて一瞬焦ったけど、
浅野の言葉が胸を突いた。
「ありがと、浅野」
浅野、震えてる。
嘘、ついてごめん。
何も、話せなくてごめん。
昨日の事が昨日だけの事だったとしても、夢だったのだとしても、
何故か人に話せる気にはなれないんだ。
軽蔑されるからとか、変人扱いされるからとかじゃなく。
だって実際浅野は人をそういう風に扱う事はない。
何も心配いらないんだ。
なのに、何も言えない。否、言わないのは…

この疼く痕が綺麗に消え去る頃には
何かが見えるのだろうか、それとも






(抱き締められた温もり)
(思い出すのは…)



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