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第7Q

「テツくん、知らないよねー」
「すみません、僕にも分かりません」


講義の合間に私はテツくんに話を持ち掛けていた。
案の定、テツくんも何も分からないらしい。
「黄瀬くんが怪我をしてから何か変わった事は?」
「うーん、全然分かんない」
「青峰くんが不機嫌だったのは今日だけですか?」
「うん、そう感じたのは今朝からかなあ」
「だとしたら昨日か、ここ数日で2人の間に何かあったと考えられるかもしれませんね」
「何かってなんなんだぁー」
「ちょっと、私のテツに当たらないでくれる?」
「あ、奏様」
飲み物を買いに行っていた奏が戻って来た。
当たったつもりはないのだけど、なんかすいません。
「ていうかさ」
「ん?」
「あんた分かってんでしょ?黄瀬っちがあんたに猛烈に恋してるって」
「こ、恋…」
「鈍感じゃないんだから、気付いてないとは言わせないけど?」
「…わ、分かってるよ。けど猛烈にとは語弊が…」
「無いね。私には分かーる」
「黄瀬くんもきっと葛藤しているんだと思います。好きな人の幸せを壊したくないという気持ちと、だけど自分もその視界に入りたいという気持ちと」
「まあ、あんたには何も出来ないのが現状だけど」
それも、痛いくらいに分かってます。


大学の帰り道、駅にちょっとした人だかりを見つける。
何かあったのかな?
そう思って少し近付いて視界に捉えた瞬間足が止まった。
「あ!」
人ごみを掻き分けてこっちに向かって来るのは涼太だった。
涼太はその勢いのまま手を取って私の頭にストールを被せると、丁度良く現れたタクシーを捕まえて乗り込んだ。
涼太が告げた行き先は涼太のチームの所有する練習場だった。
「ちょ、涼太!?」
「ごめん、名前っち」
「いや謝らなくてもいいけど、どうしたの?」
「ただ…会いたくなっちゃって。へへ…ごめんなさいッス」
「っ」
涼太の事を怒ってはいない。
だけど軽率に流されるままにタクシーに乗り込んでしまった事を少し後悔した。
こんな事を言われてこのまま一緒に居たらいけないような気がする。
そう思って口を開こうとしたら、眉を下げて困った顔をした涼太がまっすぐこっちを見ていた。
「ちょっとだけでいいんス」
「…」
「ちょっとだけ…俺にも名前っちの時間、くれないッスか」
「…涼太」
本当は良くないって分かってる。
だけどあまりにも切ない目をして訴えて来る涼太を、拒否する事なんて出来なかった。


「名前っち、ごめん」
「謝らなくていいよ、涼太」

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