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Over Time Birthday

『青峰〜っち!』
『は!?黄瀬!』


8月31日…俺の誕生日。
俺を置いてさっさと仕事に行った名前。
帰ったら何されたって拒否権一切ねーんだからな、覚悟しとけ!とか考えながら名前抜きのつまんねー休日を過ごしたのをよく覚えてる。
1人宛ても無く街を歩いていた時、背後から会いたくもねえアイツに声を掛けられた。
『奇遇ッスね!俺も今日休みなんス!』
『…あっそ』
『誕生日に1人でなーにしてんスか』
『別に…散歩だ散歩』
『なら俺も!』
『はぁ?着いてくんな』
『いいじゃないッスか!こないだは一緒にショッピングだってしたじゃないッスか〜』
『あ、あれはお前が勝手に!』
『え〜!俺結構役に立ったと思うんスけど?』
『……それは、まあ…か、感謝はしてる…』
『………』
『な、なんだよ』
『あ、あ、青峰っちが…か、感謝って!』
『うるせーよ!もう二度と言うか!!』
『激レアーッ!!』
『うっせえ!!!』
黄瀬の発言に腹は立つが正直感謝はしていた。
誕生日の数日前、ある店の中で商品を物色していた俺の所に黄瀬がやって来た。
俺は普段はぜってー入らない様な店に居た。
指輪とかネックレスとかキラッキラした高級なもんを置いてある店だ。
本当は名前と一緒に行くかとも思ってたが、そんな事して茶化されんのも癪だし結局自分で選ぶ事にした。

…婚約指輪だ。

『プロポーズッスか!ついに!』
『なんでお前が居んだよ』
『外から見えちゃったんだからしょうがないじゃないッスか。頭ガシガシ掻いて悩みまくってるんスもん』
『…しょうがねーだろ、こんな店滅多に来ねえんだから』
『頻繁に来てても困るッスけどね〜』
指輪の形やサイズや何もかもに頭を悩ませていた所に黄瀬が来た。
すっげえ不服だけど黄瀬のアドバイスは的確だった。
店員もうんうんと頷いて黄瀬の意見に賛成する。
鵜呑みにするつもりはねーけど一応参考にして候補を何個かに絞った。
『青峰っち、なかなかいいセンスしてるッスね』
『バカにしてんのかてめえ』
『まさか!一世一代の大仕事ッスよ!尊敬してるんスよ、俺は』
『…ふん』
『で、この中のどれにするんスか?』
『それを今悩んでんだよ!さっぱり分かんねえ!』
『うーん。ここまで絞れたんだし、あとは…名前っちの顔でも思い浮かべて決めればいいんじゃないッスか?』
『…名前の顔…』
黄瀬の言う通りアイツの顔を思い浮かべた。
そしたら案外すんなり決まりやがった。
黄瀬の言う事もたまには役に立つもんだ。
名前に渡した指輪は、不服だが黄瀬の助け舟もあって無事決まった。


「あはは!だから誕生日の時涼太に『恩着せがましい』とか言ってたんだ」
「…アイツが恩を仇で返す気かとか言うからだろ」
「でもちゃんと感謝してるんだね、偉い偉い」
「うるせーよ!撫でんな!」
黙ってるのがモヤモヤした俺は名前に話した。
指輪選びに黄瀬も関わったって事を。
言わなきゃ良かったと半分後悔したけど。
誕生日の埋め合わせだと、俺の休みに合わせて仕事を休んだ名前。
今日は思う存分好きな様にしていいだとかクソ可愛い事を言う。
遠慮なんて言葉知らねーから俺は名前を後ろから閉じ込めて暫く拘束してる。
珍しく恥ずかしいだの何だの文句一つ言わねえ名前の髪に顔を埋めた。
「指輪…俺が1人で決めたんじゃなくてガッカリしたか?」
「どうして?ガッカリなんてしないよ?」
「女にとっちゃ重要なもんだろ…男には分かんねーけどよ」
「そうだけど、結局大輝が最後にコレだって選んでくれたんだから私はそれで十分。凄い嬉しいよ」
「…あっそ」
「変な大輝」
俺の腕に触れてクスクスと肩を震わせて笑う名前を強く抱き締める。
俺は名前の言葉に心底ホッとしていた。
黄瀬は名前の事が好きだった。
いや、もしかしたら今だってまだ好きかもしれない。
やっと本当に俺のもんになった名前を渡す気ももう触れさせさえする気もねーけど…黄瀬のイイ所を見せたら比較されんじゃねーかとか、アイツの方が良かったとか言われんじゃねーかとか…俺らしくねえ事ばっか考える。
要はアレだ…認めたくねーけど、不安、なんだと思う。
あー、だせえ。
「私が好きなのは大輝だけだからね」
「な、なんだよ急に」
「ん?なんでだろ…言いたくなっただけ」
「…そーかよ」
名前の言葉に思わずニヤける口元を覆う。
見えねえくせにそれに気付いたのか俺に背を向けたまままた笑った。
頭に顎を乗っけてグリグリしてやれば『痛い』とか言いながら今度は声を上げて笑う。
俺の腕に簡単に納まるコイツは俺よりずっと小さいくせにずっと大人でずっと器がデカイ。
いつだって俺の事考えていつだって俺の欲しいもんをくれる。
今だってそうだ。
名前の頬にグイと顔を寄せればゆっくりこっちに顔を向ける。
そのまま唇を合わせると体を反転させて細っこい腕を俺の首に回した。
どうやら今日は本気で俺の好きな様にさせてくれるらしい。
やけに従順だ。
背中を支えてソファに押し倒せばまたクスリと笑った。
「んだよ」
「ふはは、別にー?」
「言え、突っ込むぞ」
「言ったって言わなくたってするくせに」
「うるせーよ」
「好きだなって思っただけだよ」
「ッそ、そーかよ!」
「言ったでしょ?」
「あ?」
「どんな大輝も好きだって」
そう言って自分から腕を伸ばし唇を合わせて来た名前を強く抱き締める。
何度も聞いたその言葉はいつだって俺を安心させた。
俺もコイツを安心させてやりたい。
たまには欲しい言葉だってくれてやりたい。
名前のやけに柔らかい空気に絆されたのか、自分の口から出たクソ甘い言葉に心ん中で笑った。
ま、たまにはこういうのも悪くねーよ。

「俺だって、どんなお前も愛してんだよ」
そう耳元で囁いて…ソファに2人、身を沈めた。

END
20140705

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