「何やってんだ?」
「ケーキだよ。誕生日ケーキ」
皆が帰った後、私は大輝の為にケーキを作り始めた。
時間は遅くなっちゃうけどどうしても作りたかったから。
去年は離れ離れだったし、誕生日には行ったけどちゃんとお祝いは出来なかった。
ケーキも無かったし、まあ…大輝が引っ付いてて何も出来なかったっていうのもあるけど。
あれはあれで楽しかったし嬉しかったけど思い出して苦笑いだ。
生地を型に流し込んでオーブンにセット。
フルーツを切って生クリームを泡立て始めた所に、痺れを切らした大輝がのそのそとやって来た。
「…おせえ」
「ごめんごめん。もうちょっと待って」
「お前、今日は俺をどんだけ待たせりゃ気が済むんだよ」
「だからごめんってば。先にお風呂入ってもいいよ?」
「ふっざけんなコラ。今日は一緒に入んだよ」
「…わー、ご立腹」
「拒否権ねーぞ」
「あはは」
かなりご機嫌を損ねてしまったらしい。
フルーツと生クリームを冷蔵庫にしまって振り向いてすぐ、大きな体に思いっ切り抱き締められた。
顔が胸板に当たって息苦しい。
「今日は随分甘えますねー」
「お前が俺を労わらな過ぎなんだよ」
「んー、それもそっか」
「分かってんなら何とかしろ」
「ふはは、っん」
身を屈めた大輝の顔がぐっと近付いて、ぶつける様に唇を塞がれた。
苦しくなって酸素を求めて薄く口を開けば、そこから舌が侵入して私の口内で暴れる。
よろけた私を支える様に腰に手が回り、逃げ回る舌を追い掛け絡め取られた。
脚の間に大輝の膝が割り入って私の動きを遮り、押し付けられたそれは既にその存在を誇張している。
片手が服の裾から入り込んで下着の上から胸に触れた。
ビクリと体を揺らせばその手はゆっくりと動いて、私の反応を確かめながら這い回った。
変態染みた荒い鼻息を吐き出し、大輝がやっと唇を離して私を見つめる。
その目はトロンとしていたけどやけに真剣な色を宿していた。
「ん…お前、エロイ」
「っはぁ、だ、誰のせいッ」
「俺」
「ホント馬鹿」
「ああ?お前はそうやって俺ん事だけ考えてりゃいーんだよ」
「もう…」
「…なあ、ケーキまだ?」
「…あのね、邪魔しに来た人が何言ってんの」
「早く食いてー」
「…あれ。続き、いいの?」
「……お前淫乱だな」
「なッ!」
「っぶはは!早くクリーム塗ったくって仕上げちまえって。終わったら風呂な」
「超勝手!」
私に巻き付けた腕をゆっくり解いて背中を向けた大輝に罵声を浴びせる。
勿論大輝はそんな事気にも留めずに笑いながらお風呂に向かった。
「なんだよ、その目は」
「いや…熱でもあるのかなって」
「俺を何だと思ってんだ」
「え、変態」
「…」
「ほら、やっぱなんか変」
ケーキを作り終えてお風呂に駆け込んだ私は特に何もされずに無事バスタイムを終えた。
こ、これは私がおかしいんじゃなくて大輝がおかしいのだ。
いつも一緒にお風呂に入ったらタダじゃ出られないはずなんだけど…。
リビングのソファに座っている今もやっぱり大輝の様子がちょっとおかしい。
誕生日だっていうのに私が放って置き過ぎたのかと本気で心配になって来た。
ここはケーキで盛り上げるかと思い立ち上がると一歩踏み出す前に手首を掴まれた。
「?…どしたの?」
「何処行くんだよ」
「何処って…ケーキ、持って来ようかなって思ったんだけど」
「…今はいらね」
「ええー、せっかく作ったのに」
「いーからここ座れって」
「…変なの」
「うるせーよ。ほら、こっち」
「…甘えん坊」
「るせー」
そのまま手を引かれて落ち着いたのは大輝の足の間。
後ろから体温の高い大きな体に包まれた。
いつも通り悪態はついてくるけどその行動は甘えて来る猫みたいだ。
「……はぁ」
「ちょっとちょっと!溜息なんか吐いてどうしちゃったの」
「お前ちょっと黙ってろよ」
「酷い!心配してるんでしょ!?」
「心配?なんもねーよ。いーから黙れ」
「…」
「…」
「…」
「……」
「…もういい」
「は?」
「もういい馬鹿」
「何キレてんだよ」
「いつもと様子が違うからどうしたのかなって心配してるだけなのに」
「お、おい」
「うるさいとか黙れとか何でもないとか」
「おい名前、お、落ち着けって」
「誕生日なのにバイトで全然お祝いしてあげられてないからせめてケーキだけでもって…」
最悪のパターンになった。
じわっと瞳の表面に膜が出来て視界がユラユラと揺れた。
自分のエゴを押し付けた上に自分勝手に泣き出すなんて最悪だ。
ブサイクな顔を見られたくなくて、後ろから覗き込んで来る大輝を避ける様に顔を背ける。
これじゃまるで子供だ。
自己嫌悪に陥っていると突然ギュっと手を握られた。
私の手は両方とも大輝の大きな手に包まれて指が絡められている。
そして肩に顎を乗せて圧し掛かって来た。
「!……ごめん。私ちょっと大人気無かった」
「なんでお前が謝んだ、気持ちわりーな」
「…だって楽しい誕生日にしてあげたかったのに…」
小さくそう漏らせば後ろでフッと笑う気配。
今度はなんだかやけに余裕のある態度に妙にドキドキした。
「まだ終わってねーだろ…誕生日。
欲しい物はこれから貰うからいい」
「欲しい物?」
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