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第24Q

「お、終わったぁああ!」
「名前うるさい」


気が遠くなる程長い試験期間が終わった。
出来栄えは上々。
追試の心配も無さそうだ。
溜息を吐きつつ解放感を言葉に出せば奏から両断された。
明日からは夏休みだ。
とは言え私はほぼ毎日今のバイト先で働く事になっている。
インターンを悩んでいた時に声を掛けて貰ったのだ。
興味の無い企業にインターン行くなら1年半後の練習に通常勤務してみないか、と。
それはつまり
『名前ちゃんには大卒後も来て貰いたいからね。勿論デスクは用意しておくよ』
つい昨日編集長から言われた言葉を思い返して頬が上がる。
この就職難の時代に順風満帆過ぎて怖いけど、信頼出来る人から言われた言葉はすごくすごく心強かった。
思い出し笑いをしていると突然周りが騒がしくなった。
何かと思って見回すと奏にバシバシと背中を叩かれる。
「痛っ!奏、何!」
「あっち!見てみな!」
「え?…は…」
奏が指差した方に顔を向けると、そこには周囲の女の子の視線を集めて大輝が立っていた。
そして騒がしい周りなど気にも留めずにズカズカと歩み寄って来る。
「終わったか?」
「うん、終わった」
「おー。お疲れ」
「ありがと」
そう言って私の頭に手を乗せてニカリと笑った大輝。
その表情になんだか凄く安心して抱き着きたい衝動に駆られたけどここは大学、我慢だ。
奏が嬉しそうに私たちを見た。
「なーんか青峰っち、落ち着いたね〜」
「あ?」
「落ち着いた?大輝が?」
「うん。いいよいいよ、これで私も安心して名前を任せられるってもんよ!」
「ちょっと、奏さん?」
「おら、帰んぞ」
「うん。じゃあ奏、またね」
「はいよ!暇見つけて連絡してよね」
「うん!」
奏とサヨナラして大輝と向かい合えばゆっくりと大きな手が私に伸びて来る。
その手は頬を包み込んで、親指の腹で私の目の下をなぞった。
何やら甘い空気だぞと思ったけど私の思い違いだったらしい。
「目の下すげえぞ」
「頑張ったからね」
「そーだな、俺の事放置してな」
「あれ、根に持ってる」
「別に?これからたっぷり返させるからいいし」
「うわー、何それ怖い」
「とりあえずチューさせろって」
「は!ここ大学!いっぱい人居るから!」
「関係ねーよ。おら、こっち向け」
「無理!奏!やっぱり全然落ち着いてなんかないこの人!」
「うるせーな、黙っとけ。口開けたままでいーのか?」
「は!?」
「口開けてんならすげえのすんぞ」
「なっ、ん!!」
奏様、やっぱり全然落ち着いてなんか無かったよ。
後頭部を鷲掴みされて腰を引き寄せられ、身を屈めた大輝が私を覆った。
身動ぎも出来ない程に抱き込まれた私はただひたすら大輝を受け止める。
咄嗟に口閉じようとしたけど間に合わなかった。
すげえのって、こんな『すげえ』の大学で人前でするとか馬鹿でしょ。
ああそうだ、大輝は馬鹿だったと脳内で項垂れた。
だんだん酸素が足りなくなって来て、限界一歩手前で思いっきり顔を横に振った。
ムチュッとこれまた『すげえ』音を立てて唇が離れる。
唇がジンジンするとかもうホント勘弁して欲しい。
見上げれば不服そうな顔の大輝と目が合った。
「足んねーんだけど」
「もう十分でしょ!」
「お前どんだけこの俺をほったらかしたと思ってんだ、ああ?」
「分かってるけどもう無理!恥ずかしくて無理!」
「こんだけ見せ付けときゃもう恥ずかしいも何もねーだろ」
「誰のせいだ!!ああもう明日から夏休みで良かった!!」
「良かったじゃねーか。ならもっかい」
「するか馬鹿!!」
「いってえ!名前てめえ!」
「自業自得!」
「アスリートの足踏ん付けるとかお前バカか!」
「馬鹿はどっちだ!」
馬鹿2人、ギャンギャンじゃれ合いながら教室を後にする。
ああ、この一部始終を見ていた人たちの記憶がなくなればいいのに。
明日から夏休みという事実が本当に本当にせめてもの救い。
だけど迎えに来てくれた事が、私不足をこれでもかと見せ付けてくれた事が…嬉しいだなんて私も大概馬鹿だと思う。
帰ったらもうちょっと優しくしてあげようかな。


「前言撤回!引っ付き過ぎ!ちょっと離れて!」
「お前に拒否権はねーんだよバーカ」

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