「大輝が可愛過ぎて禿げる」
「勝手に禿げてろバカ」
一人ぼっちだった部屋に愛しい人が戻って来た。
前みたいに話せる事が、触れられる事が、嬉しくて仕方なかった。
自分がどれだけ大輝を好きなのかって事を痛感した。
私にぴったりと密着して離れない大輝を見つめる。
可愛い可愛いって言えば怒るけど怒った所で怖くなんかないし絶対に離れようとはしない。
大輝も私と同じ気持ちで居てくれてるんだって思えて嬉しかった。
ベッドの真ん中に小さくなって2人寄り添ってるのがなんだか擽ったい。
肩を震わせて小さく笑えば、私を抱き締める大輝の腕に力が入ってぎゅうぎゅうと締め付けられた。
「いつまでも笑ってんな、キレんぞ」
「そんな事言って…全然怖くないよ、大輝」
「るせー」
「あーもう、大好き」
「!」
「もう…何処にも行かないで」
「名前っ」
広い背中に腕を回して大輝の存在を確かめた。
あんな思いはもう二度と御免だ。
「行かねーよ、何処にも」
「うん」
「言ったろ?お前がいねーと無理だったって」
「うん」
嬉しくて頬を摺り寄せれば、大輝は私の首元や項に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅いできた。
変態染みたその行為でさえ愛しい。
そして大きく息を吐いて語り出す。
「あー…あれだ、ほら」
「ん?」
「焼肉屋で言うとカルビ」
「は」
「弁当のメシで言うと梅干し」
「は?」
「焼肉弁当の焼肉」
「…」
「あー、後はよ…」
「いい、分かった、もういいから」
「あ?んだよ、まだあんぞ?」
「おバカなりに考えてくれたのは良く分かったから」
「んだとコラ」
「どうせ唐揚げ弁当の唐揚げとか言うんでしょ」
「な!お前エスパーかよ」
「…」
「よく分かってんじゃねーか。アレだ、アレ…無いとダメなヤツ」
「っふふ」
「は?笑うなって、こっちは真面目に言ってんだぞコラ」
「違う違う、嬉しいんだよ」
「…」
「カルビでも梅干しでも唐揚げでも何でもいいよ。大輝が私を必要としてくれるなら」
「…当ったりめーだろ」
チッと言う舌打ちの音と共に首筋に甘い痛みが走る。
あちこちに吸い付いては離れを繰り返し、大輝の熱い吐息が私を擽った。
「じゃあよ、お前にとって俺ってなんだよ」
「んー、空気?」
「はぁ?それ居るか居ねーか分かんねーじゃねーか。影が薄いテツみたいって事かよ!」
「バカ、違うよもう」
「じゃあなんなんだって」
「ヒトは空気…酸素が無いと生きて行けないでしょ?」
「あ?あー、おう」
「…小学生やり直す?」
「一瞬忘れてただけだって」
「まいいや。だから…私は大輝が居ないと生きていけないって事」
「…」
「息も出来なくて死んじゃうって事」
「…」
「分かった?」
「なあ、『愛してる』の上ってなんて言うんだ?」
「…大輝が私を猛烈に禿げさせようとしてる」
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