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第19Q

「おかえり、大輝」
「………ただいま」


『ただいま』が嬉しくて思わず頬が上がる。
それを隠し切れずに微笑んでいると目を逸らされた。
荷物を置いたはいいけどなかなか上がろうとしない大輝の手を引いて急かす。
更に顔を背けられたけどそんなの気にしてなんかやらない。
「何か飲む?」
「…いらね」
「お腹空いた?」
「…ん」
「残り物だけどカレーあるから、あっためるね」
「おー」
大輝をソファに座らせてキッチンに向かう。
さっきから素っ気ない返事ばかりだけど、私はそんな事でさえも嬉しくて仕方無かった。
問い掛ければ返事がある。
この部屋に大輝が居る。
ずっとこの日を待ってたんだから。

向かい合って黙々とカレーを平らげてボソッと『…うまかった』と呟いた大輝にまた嬉しさが込み上げる。
食後は俺は食べ過ぎたから先に風呂に入れと言われたので素直に従った。
早く大輝と話したくてお風呂は早々に上がって交代だ。
大輝が入っている間に玄関に置かれた荷物の洗濯物を片付ける事にした。
ジャージにユニホーム、スポーツタオル…今日の試合で使っていた物を取り出して洗濯機に放り込む。
ふと、ユニホームのズボンのポケットから何かが落ちた。
「ん?……あ」
それは私が大輝の誕生日に渡した手作りのお守りだった。
拾い上げてみると少しの違和感。
私がしっかり締めた結び目が解かれて、歪に結び直されていた。
『どうしても辛くてしんどくて耐えられなくなった時に見なさい』って言って渡したのを記憶してる。
「見た…のかな?」
洗濯機のスイッチを押してリビングに戻り、お守りを手にソファに寝転んだ。
天井の電気の光に当ててみるけど勿論中身が見えるわけでもなく…だけど中の紙がぐしゃっとなっている様な気がする。
「んー」
「!お、おい!!」
「ん?え、うわっ!」
突然の声に反応すれば、いつの間にお風呂を出たのか大輝が私の腕を掴んでいた。
私の手の中にはお守り。
ついぎゅっと握り締めてしまったので潰れてしまったかもしれない。
「お風呂、早かったね」
「それ寄越せ」
「え」
「それ!寄越せって!」
「お守り?」
「そーだよ、早く」
「…何焦ってるの?」
「別に焦ってねーけど」
「大輝、中身見た?」
「!…み、見たけど…」
「え!じゃあ願い事書いた!?」
「!!」
「願い事!叶った!?」
「!!」
この手作りお守りの中身はこうだ。
『どんな大輝も大好き!』
『ここに願い事書いたらきっと叶うよ!』
私が作ったご利益なんて到底期待出来そうにない物だけど、気持ちだけはしっかり込めてある。
私の問い掛けに大輝が口元を引き攣らせてモゴモゴと呟いた。
「半分叶わなかったけど…半分叶った…」
「書いたんだ!」
「!う、うるせー!」
「しかも過去形って事はもうお守りは用済みだよね!」
「…」
「なんて書いたの?開けてみよう!」
「はぁ!?ふざけんなよ!誰が見せるか!」
「絶対見たい!私があげたんだし半分でも叶ったなら見せてくれたっていいじゃん!」
「見せねーよ!返せコラ!」
「やだ!んー、よっし解けた!」
「な!マジ止めろ!!返せバカ!!」
「え、ちょっと、ぎゃっ」
「っぶ!」
「ぐえっ」
私の手を追ってソファに身を乗り出した大輝がバランスを崩し、私の上に覆い被さった。
うん、色気もへったくれもない声が出た。
「ぐえって…お前」
「うるさい」
「…はぁ」
脱力して項垂れて私に密着してくる大輝。
首元に息が掛かってなんだかゾクゾクした。
大輝の顔の向こう側には死守したお守り。
中のお札を少し引き出して見えた『願い事』に息を呑んだ。

『黄瀬にぜってー勝つ』
『名前を奪い返す』

「…」
「…」
「…何黙ってんだよ」
「だ、だって」
「…半分叶わなくて…半分叶ってんだろ」
「ッ」
「黄瀬には…負けたけど。お前は獲り返した」
「私っ、奪われてないし!!」
「俺にとっちゃ同じ様なもんなんだって」
覆い被さったまま私を抱き締めて来る大輝の腕はもう震えて無かった。
私の髪に顔を埋めて擦り寄って来るその行為が懐かしくて嬉しくて、お守りをぎゅっと握り締めたまま広い背中に腕を回す。
それに応える様に大輝の腕にも力が込められた。
「私、『どうしても辛くてしんどくて耐えられなくなった時に見なさい』って言ったよね」
「おう。だから見たんだろ」
「い、いつ」
「……お前と離れてすぐ」
「『俺がそんな事になるわけねーだろ』とか言ってたのに」
「………無理だったし」
「え」
「名前がいねーとか、俺には無理だったし」
「ッ」
「お前は……平気だったのかよ」
「っ平気なわけ、ないッ!!」
思わず大きな声を張り上げれば埋めていた顔を上げた大輝と視線が絡む。
至近距離で合わせた藍の瞳はゆらゆらと揺れて、大輝に使うには到底似合わない言葉だななんて思ったけど…凄く凄く綺麗だった。
「名前」
「ッ」
「名前」
「大輝」
大輝の顔がゆっくりと近付くのに合わせて、そっと目を閉じた。


「ただいま」
「おかえりなさい!!」

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