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第15Q



「…すっご」
「…」




場内は割れんばかりの歓声。
称賛の嵐。
感嘆の息を漏らす奏の隣で私はというと…
声も出ない。
瞬きすら容易に出来ない。
息が詰まりそう。
ただ茫然と2人のエース対決を観ていた。
両チーム共絶対的な信頼を誇る両エースにボールを集め、行く末を見守っているかの様だ。
咽返る様な緊張感の中、点の取り合いでは無く睨み合い探り合いが続く。
エースのどちらかがボールを手にすればどよめきが起こり、ボールがカットされれば溜息が漏れた。
常人では成し得ない動きで、青と黄色がぶつかり合っていた。
この景色には見覚えがある。
私が以前存在していた世界の紙の上。
桐皇VS海常…つまり青峰VS黄瀬の対決。
こんな形で目の当たりにするとは思いも寄らなかったけれど。
握り締めた手にはじっとりと汗が滲んでいた。
「名前、大丈夫?」
「ッうん…平気」
「外出て休憩する?」
「…いい。大丈夫。最後まで観る」
「…名前」
心配してくれる奏の目をしっかりと見て告げた。
困った様に微笑みながらポンと頭を撫でてくれて、私は少しだけ息を吐いた。

両者譲らない展開のまま第2Q終了の合図が響く。
場内はより一層大きな歓声に包まれた。
スコアボードは51−42の9点差。
異常なまでに心臓の音が煩い。
何故かって…
桐皇と海常の試合も確か、第2Q終了時点で9点差とかじゃなかった?
最早遠い昔の記憶を手繰り寄せて考える。
隣の奏を見ればばっちり目が合った。
同じ事を考えてたみたい。
「怖いくらいの再現って感じだね」
「…うん」
「こんな試合観れるなんて思わなかった」
「うん」
「しかし凄い、2人とも命掛けてるって感じ」
「い、命って」
「やっぱあんたのモテ具合ハンパないわ、この贅沢者めっ」
「…せっかく真面目な雰囲気だったのに」
「名前がガチガチになり過ぎなんだよ」
「だって…」
そんな事言われたって仕方ない。
確かに滅多にお目に掛かれない凄い試合だって思う。
だけどこの試合が終わって、結果が出て、どうなるんだろう?
大輝と涼太が真剣勝負をしてるっていうのは十分に分かってる。
だけど私はこの試合が終わってしまうのがなんだか少しだけ怖かった。
チームの勝敗は決まる。
大輝と涼太の勝負にも決着がつく。

それで大輝は、戻って来てくれるのだろうか?

行き着くのはそこだった。
自販機で飲み物を買いつつ悶々と考える。
そして買い終えて席に戻ろうとした私に声が掛かった。





「名前さん…」
「え、テツくん?」



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