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第14Q

「緊張して臓物が飛び出そうです奏様」
「気持ち悪い事言ってないでとっとと歩く!」


バイトを少し早めに上がらせて貰って外に出れば奏が待っていてくれた。
ぎこちなく笑ってお礼を言うとバシッと頭を叩かれる。
「痛い」
「しゃんとしなさい」
「…分かってるよ」
奏の手荒な励ましを受けながら会場に向かった。


会場に着くと想像以上にたくさんの人でごった返していた。
両チームのエース対決を良席で観ようと早くから並んでいる人も多く居るらしい。
如何にも楽しみだとテンションの上がるその人達とは逆に私は時間が迫る程気分も落ちていく。
「名前っち」
「!」
「名前、私飲み物買いに行ってくるからね」
「う、うん」
奏が私の肩をポンと叩いて歩き出した。
私の目の前にはチームジャージに身を包んだ涼太。
思えば大輝だけじゃなく涼太に会うのも久しぶりだ。
「ありがとう…来てくれて」
「うん」
「青峰っちはもう控室に居るみたいッスよ」
「…そっか」
「…」
「…」
「名前っち」
「ん?」
「困らせてばっかでごめん…応援は、してくれなくてもいいからッ」
「え…」
「俺、今日勝つつもりでいるッス」
「!…うん」
「ていうか勝つッス」
「う、ん…」
「だから、そしたら…」
「おい…黄瀬」
「!」
突然、2人の横から重低音が響いた。
この声は間違えようもない。
大輝だ。
声のした方を向けば大輝は涼太の方を見ていた。
怖いとか不安とかより先に元気そうな姿が見れた事に安堵した。
久しぶりに会えた事が嬉しくて飛び付きたい衝動をなんとか抑える。
「青峰っち…今日は、負けねッスよ」
「…言ってろ」
「名前っち…じゃあ。観てて下さいッス」
「う、うん…」
涼太は決意の込められた強い瞳を私に向けてから去って行った。
残されたのは大輝と私の2人。
沈黙が痛い。
意外にも先に口を開いたのは大輝だった。
「…元気か?」
「!」
「戸締り、ちゃんとしてんだろーな」
「ッうん」
「夜中に1人で出歩いてねえだろーな」
「うん」
「ちゃんと、寝てんのか」
「ッう、ん」
「!泣いてんじゃねーよ、バカ」
「な、泣いてないッ…そう思うならっ」
「あ?」
「早くっ、帰って来てよッ」
「!」
ジワリと目の奥が熱くなって水分で瞳が覆われる。
強く瞬きをすれば溢れてしまいそうだ。
おかげで大輝の顔がはっきりとは見えないけど、動きを止めて私を見ているのだけは分かる。
「青峰ー!時間だぞー!!」
「「!」」
遠くから大輝を呼ぶ声が聞こえた。
チームメイトの様だ。
驚いて瞬きをした瞬間、涙が一滴頬を伝った。
それを自分で拭う前に目の前に現れた大きな手。
一瞬の戸惑いの後…
大輝の指が私の涙を拭っていた。
「しっかり観とけ」
「ん…」
「黄瀬には負けねー、絶対」
「え」
独り言の様な言葉をぽつりと残して大輝は私に背を向けて駆け出した。
入れ替わる様に奏が私に歩み寄る。
「青峰っちに会えたんだね」
「うん」
「どうだった?」
「か、かっこ良かった」
「うざ!そんな事聞いてないわ」
「ッや、優しかったっ」
「そ」
「なんか、急にかっこよくなっちゃって…大人っぽくなっちゃって…なんか狡い」
「あはは!あんたどんだけ好きなの」
「一番。他の誰より一番私が大輝の事好き」
「…あんたそれ、ここで使う台詞じゃないから。可愛過ぎて禿げ死ぬわ」
「禿げても死なないで」
「ぶっ!ふふ、だんだん名前らしくなって来たね」
「いたっ」
バシッと背中を叩かれて前のめりになる。
恨めしい顔をして振り向けば、笑顔の奏が手を差し出してくれた。
その手を取って歩き出す。


「さ!いざ参らん!」
「あはは!奏様、男前!」

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