『試合、見に来て欲しいんス』
「え…試合？」
突然の涼太からの電話に動揺しつつも通話ボタンを押した。
出るなり何度も何度も謝って来る涼太に大丈夫だからと言い聞かせた。
ホントは気持ちに余裕なんてこれっぽっちもなくて全然大丈夫なんかじゃないんだけど。
『試合は明後日、時間は１８時からッス』
「え？」
『それから場所は』
「ちょ、ちょっと待って」
『都合、悪いッスか？』
「否そうじゃなくて…どうしたの、急に」
『…急じゃないんス』
「え？」
トーンの下がった涼太を不思議に思ったけど、あまり深く追求しちゃいけない気がして口籠る。
涼太が試合を見に来てなんて言うのは初めての事だ。
でもそういえば明後日の試合って…
『青峰っちのチームと、試合なんス』
「！」
『前回は…俺が怪我で出れなくて、それで…』
「…涼太？」
『…勝負なんス。俺と青峰っちの…』
「！」
もう一度時間と場所を告げて涼太は通話を切った。
私はぼんやりと携帯を見つめながらさっきの涼太の言葉を思い返していた。
『…勝負なんス。俺と青峰っちの…』
そして以前彼が言っていた事も思い出す。
『…男にはココだっていう勝負時ってのがあるんスよ』
「明後日、か」
正直迷っている。
涼太に来てって言われたからって大輝も同じ様に思っているだろうか？
来るんじゃねーよって、嫌な顔されないだろうか？
『黄瀬が来いって言ったから来たのかよ』とか言われないだろうか？
そんなモヤモヤとした感情を持て余して、何日経っても慣れない一人ぼっちのベッドに身を沈めた。
次の日。
「行きなさい、名前」
相談相手である親友の応えはコレだった。
奏なら絶対そう言うだろうなと思ってたし私も行く事をほぼ決めていたので、最後の一押しが欲しかったんだと思う。
いつも私の背中を押してくれる親友にまた感謝だ。
「勝負かぁ…大変だこりゃ」
「…他人事ですか奏さん」
「そんな事一言も言ってないでしょ。ホントに大変だなって思ってるわけですよ」
「ソーデスカ」
「まあ…どっちが勝っても結局誰かが何か辛くなるんだよね」
「…しなくていい方法、無いのかな。勝負なんて、ってイダッ！！」
「こら名前、そんな事二度と言わないよ」
「…はい」
「どういう勝負なのかは分かんないけどさ。青峰っちが勝ったら現状維持だと思うけど、黄瀬っちが勝ったらどうなる事になってんだろうね」
「え」
「青峰っちが名前を手放すとは思えないけどね」
「そんなの分かんないし…どうしよ、捨てられたら」
「………ぶっ」
「ちょ、何笑ってんのこの人ッ！」
「だ、だって！らしくない！！あはは！」
「なっ！ひど！」
「あの青峰っちがあんたの事捨てるわけないじゃん！あははっ！あんた真面目な顔して何言ってんのッ」
「真面目にもなるわッ！か、帰って来てくれないんだからッ」
「ふはっ！ぷ、捨てられたらって！名前が！ぶふっ」
「分かってますよ！柄じゃないって！！」
「はあー、笑った。ごめんごめん」
目尻にうっすら涙を溜めて息を乱している奏をジト目で見る。
それでもまだニヤニヤしていた。
私だって大輝が簡単に私を捨てるなんて…思いたくない。
だけど、いつになっても帰って来ない連絡も取れない今の状況がただただ私を不安にさせていた。
試合は、明日。
「観る時は一緒に居てあげるから安心しなよ」
「奏ーっ」
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