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第12Q

「ホント…何処行っちゃったんだろ」
『実家?なわけないよねぇ』


大輝が家を出て行ってから1週間以上経った。
連絡も取れず、私もあれ以来チーム練習を見に行っていない。
受話器の向こう、奏の言う通り…実家っていう事はまずないだろう。
もしそうだとしたらすぐにでもお父さんとお母さんから連絡が来そうだ。
逆に『大輝帰ってませんか?』なんて事聞けるはずもなかった。
心配を掛けちゃいけない。
2人でずっと仲良くやっていきますなんて宣言もしてしまったし、まさか自分もこんな事になると思ってなかったから。
「私、どうすればいいんだろ」
『こらこら、弱気になるでないぞ』
「そんな事言ったってこの状況…ホントどうしたらいいか分かんない」
『青峰っちも怒ってるってわけじゃないと思うんだけどなー』
「…怒ってるでしょ」
『いやいや。始めこそ逆上してやらかしちゃったけど…あんたと一緒でさ、会いたいって思ってんじゃないの?』
「…」
『こら。泣かないよ』
「…あい」
『全くあんた随分と涙脆くなったよねー』
「自分が一番ビックリしてますわ」
『まあ、可愛げが出て来たって事でいいじゃんよ』
「可愛げ?そんなの私求めてないから」
『えー、女の涙は武器ですよ?特にあんたみたいに滅多に泣かなそうな女はね〜』
「…からかわないでください」
ガチャン
「!!」
『ん?どした?』
「玄関の、音?」
『え!?』
「!か、帰って来た!?」
『嘘!電話いいから早く行きな!』
「っうん!」
この家の鍵を持ってるのは私以外1人しかいない。
携帯を放ってリビングのドアを開けようと急いだ。
期待が膨らむと同時に何を話せばいいかと不安になる。
ドクドクと心臓が煩い。
ドアノブに手を添えた私が力を加える前に、扉が開いた。
「「!」」
「ッおかえり、なさい…」
「名前…」
久しぶりに聞いた大輝の声と自分の名前。
思わず飛び付きたくなったのをぐっと堪えて、大分見上げた先にある瞳を見つめた。
目が合うと藍の瞳が不安定に揺れる。
帰って来てくれたわけじゃないのだと瞬時に理解した。
無言で私の横をすり抜けて寝室に向かう大輝。
寝室の前でピタリと立ち止まり、ドアノブを掴む手は気のせいか震えているように見える。
その横顔は目を閉じて眉間に皺を寄せて…何かを考えているみたいだった。
少しの時間を置いてドアを開けた大輝は、クローゼットを漁って服やバッグを取り出した。
また出て行ってしまうんだと思った。
寝室を出て来た大輝とまた鉢合わせる。
大輝の目は私を見てくれなかった。
無言ですれ違う瞬間、私は堪らなくなって大輝の名前を呼んだ。
「ッ大輝!!」
「っ!」
すぐ横で大輝が小さく息を呑む音が聞こえる。
ガタンッ
大きなバッグが床に落ちる音を聞いたのと同時、私の体は大きな体に強く強く抱き締められた。
そのあまりの強さに一瞬息が止まるかと思う程。
「名前っ」
「!」
振り絞る様に小さく呼ばれた私の名前に全身が震える。
後ろ髪に顔を埋めた大輝から感じる吐息が項を擽った。
大きな背に手を回そうと身動ぎした時、突然飛び跳ねる様にして大輝が距離を置く。
「!だ、大輝?」
「!…わりぃ…」
「え」
そのまま荷物を引っ掴んでバタバタと出て行った大輝を私は追い掛ける事が出来なかった。
バタン
あの時と同じように虚しく部屋に響くドアの音。
視界が歪む。
悪いって…何が?
抱き締める事が叶わなかった宙ぶらりんの両腕を力なく下ろして暫く立ち竦む事しか出来なかった。


「いつになったら帰って来てくれんのバカ…」
『名前…』

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