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第11Q

「おはよー、奏」
「おは…よ……」


あれから2日。
大輝は帰って来ない。
私が留守の間、家に来た形跡も無かった。
勿論電話も繋がらない。
体調が悪いという理由で大学は行かず、あの日以来初めて奏に会ったのだけど…
私を見て何かを察したのか会った瞬間手を引かれて拉致された。
私は奏に全部を話した。
何も言わずに最後まで話を聞いてくれた奏は、私の手を取って手首にハンカチを巻いてくれた。
「誰もが悪いけど、誰も悪くないよ」
奏がボソリと漏らした言葉。
完全に矛盾してるっていうのに、なんだか少し気持ちが軽くなったような気がしてちょっと救われた。
「それぞれの立場で、それぞれ思う事があって、それぞれがブレーキ効かなくなって…仕方ない、人間だもん」
「か、奏っ」
「あの2人に何があったか知らないけど、絶対戻って来るよ…青峰っちは」
「連絡も…取れないのに…」
「大丈夫。あんたが一番よく分かってんじゃないの?」
「…」
「きっと何かきっかけがあって愛情が行き過ぎちゃっただけ。まあ、狂愛一歩手前って感じだけどね〜。危ない危ない」
ポンと頭に手を乗せて苦笑いする奏。
釣られて苦笑いを浮かべれば頬っぺたを抓られた。
「い、痛いです」
「ふんっ!このモテ子め」
「モテてません」
「ま、私も男だったらあんたにハマる自信あるけどね」
「えええ」
「こんな面白い女、捕まえとかなきゃ勿体ないわ」
「お、おもしろい…」
私も男だったら絶対奏に惚れてるよ。
女である今だってそうなんだから。
大輝とテツくんと出会ってからホント色んな事があったけど、いつも辛い時は必ず奏が支えてくれた。
助けてくれた。
奏が居てくれて…本当によかった。


次の日、私は大輝が所属するチームの練習施設に来ていた。
元気な姿を一目見たら帰ろうと決めて。
大輝だけじゃなくチームメイトにも見つかっては困るので身を屈めて数人のファンに紛れた。
「あ…居た」
一番奥のゴールを使って数人と練習している姿を発見。
その姿を見ただけで目の奥が熱くなった。
良かった、元気そう。
大輝の姿をしっかりと目に焼き付けてそっと一歩後退る。
もう帰ろう。
「きゃぁあああ!大輝くん!」
近くに居た女の子たちが急に叫んだ。
大輝がダンクを決めたらしい。
その大きな声にジロリと目を向けた大輝が、私を視界に捉えた。
「!」
一瞬しっかりと合ってしまった目を逸らして背を向ける。
大輝がどんな表情してるかなんて見る余裕無かった。
それから無我夢中で走った。
いてて。
あー、まだ腰痛い…。
久しぶりに見た大輝に、走ったせいじゃないドキドキと苦しさで体が震えた。
あの大きな手に触れたい。
あの大きな体を目一杯抱きしめたい。
もう…私、どんだけ大輝の事好きなの。
あんなに痛くて辛い思いをさせられたって私は大輝の事を嫌いになんてならない。
なれるわけがないんだ。
会えない寂しさはどんどん募って想いは大きくなるばかり。
これからへの不安で押し潰されそうだった。
「私、こんなに女々しかったんだな」
そんなアホらしい言葉を吐きながら帰宅した。
一人ぼっちの家に。


「言ったじゃん。どんな大輝も好きだって」
『…名前』

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